この記事について
小川糸さん著の「ツバキ文具店」をオーディブルで読了したので感想を書きます。
あらすじ
鎌倉の小さな文具店「ツバキ文具店」を営む雨宮鳩子(通称ポッポちゃん)。
祖母から受け継いだ店は、文具販売だけでなく、「代書屋」として依頼主の思いを言葉にする特別な役割を持つ。
人々の想いに寄り添いながら成長していくポッポちゃんの姿を描いた心温まる物語。
感想
スローライフ
読み終わって一言で言い表すならば、「ゆったりとした生き方」が書かれているかなと思います。
そのほかにも、多くのメッセージはあると思いますが、自分は、「ゆっくり、ゆったり」と言うイメージをこの小説に持ちました。
インターネットが発達し、人に意思を伝えるの方法が多くなりました。
圧倒的に、簡単で早いメールが手紙に変わり、意思疎通の主な方法となった現代ですが、代書屋の鳩子は、依頼人の思いを伝えつため、言葉だけではなく、便箋、インク、封筒、筆記具、切手など、手紙に使われるすべてのものにこだわり、手紙を書き上げます。
この、一見、古い手紙という意思疎通手段が、その過程を一から考えることよって、とても新しいものに感じます。そして、その過程に流れる時間が、とてもゆっくりと感じました。
その他にも、ツバキ文具店に来た依頼人に対しては、必ずお茶を出したり、場合によっては大福を出したりと。この描写にもゆったりさを感じました。
これ以外にも、至る所に「ゆったり」が散りばめられているので、心がせかせかとしてしまう現代で、今自分の生活のスピード感を確かめるための良い機会になるかと思います。
文字への想い
もう一つの物語の柱と言えるのが、鳩子が紡ぎ出す「文字」です。
ただ綺麗に書くだけではなく、依頼人の個性や想いを文字に宿し、文章として形にする。その文字たちは、この小説の中で実際に目にすることはできませんが、不思議とありありとイメージできてしまう。これこそが、この物語の魅力であり、すごさだと思います。
「字とは人生そのもの」
これは、鳩子の祖母であり、先代が残した言葉です。この言葉に触れたとき、普段何気なく書いている自分の文字を改めて見つめ直すきっかけになりました。
私は、自分の文字があまり綺麗ではなく、どちらかと言えば好きではありません。せっかちな性格のせいか、字を書くときには焦りのような感覚があり、特に画数の多い漢字になると、もはや文字として体をなしていないこともあります。
そんな自分の文字を、鳩子が生み出す丁寧で美しい文字と比べると、自分から生まれる文字がなんだか可哀想に思えてきます。それでも、この小説を読んだことで、少しずつ自分の文字を労わり、愛せるようになりたいと思えるようになりました。
文字にもう少し心を込めて、丁寧に向き合う努力をしてみたいと思います。
祖母との関係
喧嘩別れしたきり亡くなってしまった代書屋の先代に当たる祖母。
この作品の中で、祖母のことを常に先代と言っているところにその関係性が伝わってきます。
作品が進むにつれ、先代の鳩子に対する想いが少しずつ明らかになってきます。
明らかになるにつて、自分の先代に対する態度に後悔をするようになるのですが、ここが本当に切ない。
謝りたいけで、もうその人はここにいない。
この感情は、自分の父への想いと重なり、すごく切なくなりました。
でも、自分は、「愛されていたのなら、決してその人は、あなたを憎んでいない」と思っています。
もし、自分が子供にひどい憎まれ口を叩かれた後に死んでしまったとしても、絶対に恨むことがないと知っているからです。
文具
鳩子は依頼に合わせて、多くの文具を使い分けます。
時には、紙ではなく、羊の皮を薄く伸ばした羊皮紙を使ったり、自分の知らない文具が多く出てきて、興味をそそります。
その中で、ROMEO No.3というボールペンが出てくるのですが、自分がお気に入りとして使っているものだったので、なんとなく嬉しい気持ちになりました。
ROMEO No.3は伊東屋が開発した高品質なボールペンシリーズで、時計の竜頭をモチーフにした天冠デザインされた、有機的な曲線が素晴らしいです。
切手にもこだわりを持っていて、その依頼に合わせて、ぴったりな切手を選びます。切手にまで表現を加えるなんて、本当に細かいと驚きました。
まとめ
今回読んだ「ツバキ文具店」は、私に、字を書くということを見つめ直すきっかけを与えてくれたのと、ゆっくり生きることを提案してくれました。
特に、自分の文字を見つめ直すということは、この作品を読まなければ出てこなかった視点なのでとても新鮮です。
今は、自分らしい文字を探して、ゆっくり丁寧に文字を書こうと思っています。
毎日の5行日記を今日もゆっくり書こうと思います。