第14次労働災害防止計画③:重点事項ごとの具体的取組を押さえる
シリーズ最終回の今回は、8つの重点事項ごとの具体的な取組内容を整理します。
前回のアウトプット・アウトカム指標と対応させながら読むと、理解が深まります。
Contents
8つの重点事項(全体像の再確認)
- 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
- 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策
- 高年齢労働者の労働災害防止対策
- 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策
- 個人事業者等に対する安全衛生対策
- 業種別の労働災害防止対策
- 労働者の健康確保対策
- 化学物質等による健康障害防止対策
①意識啓発:「見える化」と「社会的評価」がキーワード
事業者の自発的な取組を促すため、次のような施策が示されています。
- 労働災害の発生件数、労働安全衛生マネジメントシステムの導入状況など、人的資本への投資の「可視化」による情報開示
- 「安全衛生優良企業公表制度」「SAFEコンソーシアム」「健康経営優良法人認定制度」等、既存の仕組みを活用した、取り組む事業者の周知
- 安全衛生対策に真摯に取り組まない事業者に対しては、罰則の適用も含めた厳正な対応
「自発的な取組の促進」と「悪質な事業者への厳正な対応」という、アメとムチの両方のアプローチが示されている点がポイントです。
②作業行動に起因する労働災害(転倒等)対策:身体づくりも重視
転倒災害が中高年齢の女性に特に多いという現状分析(前回記事参照)を踏まえ、以下の対策が示されています。
- 運動プログラムの導入、労働者のスポーツ習慣化の推進
- 職場における腰痛予防対策指針に基づく、作業態様に応じた腰痛予防対策
- 骨密度、「ロコモ度」、視力等、転倒災害の発生リスクの「見える化」の手法提示
単に「整理整頓して転ばないようにする」という物理的対策だけでなく、労働者自身の「転倒しにくい身体づくり」というソフト面の対策も重視されている点が特徴です。
③高年齢労働者対策:エイジフレンドリーガイドラインが中核
「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)に基づき、事業者が高年齢労働者の就労状況を踏まえた安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等に取り組むことが求められています。
④多様な働き方・外国人労働者対策:ガイドラインの活用と「見える化」
- テレワークガイドライン、副業・兼業ガイドラインに基づく健康確保
- 副業・兼業を行う労働者が、労働時間・健康診断結果・ストレスチェック結果を管理できるアプリの活用促進
- 外国人労働者向けの安全衛生教育マニュアルの活用、ピクトグラム(絵文字)による安全表示の開発促進(言語の壁を越えた「見える化」)
⑤個人事業者等への対策:労働者以外への保護の拡大
労働者ではない個人事業者等に対する安全衛生対策の検討が進められています。
特に注目すべきは、有害物質による健康障害の防止措置について、請負人や同じ場所で作業を行う労働者以外に対しても、労働者と同等の保護措置を講ずることが事業者に義務付けられた点です(令和4年4月公布、令和5年4月施行)。
「労働者」の枠を超えた保護の広がりという、近年の重要な政策トレンドを表しています。
⑥業種別対策:それぞれの業種の「弱点」に対応
| 業種 | 主な課題 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 陸上貨物運送事業 | 死傷災害の約7割が荷役作業時に発生 | トラックからの荷の積み卸し時の墜落・転落防止対策の強化、荷主事業者対策 |
| 建設業 | 死亡災害の約4割が墜落・転落 | 足場の点検徹底、一側足場の使用範囲明確化 |
| 製造業 | 「はさまれ・巻き込まれ」災害 | 製造者(メーカー)から使用者(ユーザー)への残留リスク情報の提供、機能安全の推進 |
| 林業 | 死亡災害の約6割が伐木作業 | 安全な伐倒方法、かかり木処理方法の徹底、緊急連絡体制の整備 |
いずれも、「その業種で最も多い災害の型」に焦点を絞った対策になっている点が共通しています。
⑦労働者の健康確保対策:3つの柱
メンタルヘルス対策
- ストレスチェックの実施にとどまらず、結果の「集団分析」を活用した職場環境改善まで行うことを重視
- 職場におけるハラスメント防止対策への取組(以前の記事で扱ったストレスチェック制度とも密接に関連)
過重労働対策
- 時間外・休日労働時間の削減、労働時間の状況把握
- 年次有給休暇の確実な取得促進
- 勤務間インターバル制度の導入等
- 令和6年4月からの医師・建設業従事者・自動車運転者等への時間外労働上限規制の適用(いわゆる「2024年問題」)に関する周知・指導も明記されています
産業保健活動の推進
- 治療と仕事の両立支援(通院や体調に応じた配慮、両立支援コーディネーターの活用)
- 産業保健総合支援センター・地域産業保健センターを通じた、中小事業場への支援
⑧化学物質等による健康障害防止対策:「自律的管理」への転換
- 化学物質を製造する事業者
製造時のリスクアセスメント実施、譲渡提供時のラベル表示・SDS交付(想定用途・使用上の注意を含む) - 化学物質を取り扱う事業者:
入手したSDS等に基づくリスクアセスメントと、その結果に基づく自律的なばく露低減措置 - 石綿:
2030年頃に石綿使用建築物の解体がピークを迎える見込みであり、事前調査・ばく露防止対策の強化が急務 - 熱中症・騒音:
暑さ指数の把握、作業環境測定等
これまでの「個別の規制物質ごとの詳細な規制」から、事業者自身による「自律的な管理」へと重心が移りつつあるという政策の方向性が、この分野全体を貫くキーワードです。
シリーズ全体のまとめ
3回にわたって解説してきた第14次労働災害防止計画を振り返ると、次のような一貫した構造が見えてきます。
- 現状分析(第1回):死亡災害は減少、死傷災害は増加という「ねじれ」。高年齢化・第三次産業化・中小事業場での対策の遅れが背景
- 数値目標(第2回):アウトプット指標(取組の普及率)とアウトカム指標(災害の減少)という、手段と成果の対応関係
- 具体的取組(第3回):業種ごとの弱点に応じた対策、そして「コストから資産へ」「規制から自律的管理へ」という、政策全体を貫く発想の転換
試験対策としては、「どの重点事項が、どの現状分析の課題に対応し、どの数値目標につながっているか」という一連の流れを意識しておくと、個々の数字や施策名を、意味のある知識として記憶に定着させやすくなります。
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