令和7年版労働経済の分析

これまで雇用情勢、労働時間・賃金という「毎年恒例」のデータを見てきました。

今回は、令和7年版で特に重点的に分析されている第Ⅱ部「労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて」の導入部分、特に国際比較のデータを中心に整理します。

ここは令和7年版ならではの「今年の特集テーマ」にあたる部分で、試験でも重点的に狙われやすい箇所です。

なぜ「労働力供給制約」がテーマになったのか

令和7年版第Ⅱ部の冒頭で示されている問題意識はシンプルです。

労働力人口は過去最高を更新しているが、それでも人手不足は深刻化している

2024年6月の労働力人口は、統計開始以来はじめて7,000万人を突破しました。

しかし、少子高齢化を背景に、日本の生産年齢人口(15〜64歳)は2020年の約7,500万人から、2040年には約6,200万人まで減少すると見込まれています。

つまり、「今は労働力人口が過去最高でも、この先は構造的に減っていく」ことがほぼ確実な状況にあります。

この状態を白書では「長期的かつ粘着的な人手不足」と表現しており、過去の景気循環に伴う一時的な人手不足とは性質が異なる、という位置づけがなされています。

日本の実質GDP成長率:国際的にはどのポジションか

令和7年版では、日本・米国・英国・ドイツ・フランス・イタリアの主要6か国で、過去約40年間の経済成長を比較しています。

GDPシェアの推移

日本の名目GDPが世界全体に占める割合(GDPシェア)は、1991年には15%を超えていましたが、2024年には3.6%まで低下しました。

ただし、これは日本だけの現象ではなく、新興国の経済成長を背景に、米国を除くG7諸国全体でも同様にシェアが低下しています。

「日本だけが取り残されている」という単純な話ではなく、先進国全体に共通する構造変化である点は、正確に理解しておきたいポイントです。

実質GDP成長率の国際比較(年代別)

1980年以降、約40年間の実質GDP成長率を比較すると、

日本は米国・英国より低いが、フランス・ドイツとはほぼ同水準

という結果が示されています。

年代別に見ると、変化がより鮮明になります。

年代日本の特徴
1980年代実質GDP成長率4.5%で主要国中トップ
1990年代・2000年代バブル崩壊の影響で急速に低下、2000年代は0.4%で主要国中最低
2010年代以降0.9%まで持ち直し、ドイツ・フランスと大差ない水準に

「日本は1980年代には世界トップクラスの成長率だったが、バブル崩壊後に大きく落ち込み、近年は持ち直してヨーロッパ主要国並みの水準にある」という時系列でのポジションの変化が、試験で問われやすいポイントです。

労働力供給量:GDPを支えるもう一つの要素

GDPは、大まかに「資本投入量」「労働投入量」「技術進歩」の3要素で説明できます(コブ=ダグラス型生産関数)。

このうち労働投入量は、「就業者数 × 一人当たり労働時間」で構成される「労働力供給量」で代用して分析されます。

日本の労働力供給量の推移

  • 1990年代・2000年代:緩やかに減少
  • 2010年代以降:ほぼ横ばい

米国は労働力供給量が一貫して増加している一方、米国・日本以外の主要国(英・独・仏・伊)は横ばい傾向で推移しています。

日本の労働力供給量を支えた「長時間労働」という過去の構造

興味深いのは、一人当たり年間総労働時間の国際比較です。

日本を除く主要国は1990年代前半まで年間1,600〜1,900時間で推移していたのに対し、日本は年間約2,100時間と、他の主要国より相当長い労働時間が1980年代末まで続いていました

つまり、かつての日本の労働力供給量は、「長時間労働」によって下支えされていたという構造があったことが示唆されています。

1990年代後半以降、日本の労働時間は減少を続け、近年は主要国と同程度の水準まで収れんしています。

男女別に見た労働力供給量の変化

2024年時点での日本の労働力供給量の内訳を見ると、次のような傾向が示されています。

  • 男性:1990年代以降、減少傾向が継続
  • 女性:2010年代以降、増加傾向

つまり、近年の日本の労働力供給を下支えしているのは、主に女性の労働参加の進展であるという構造が、このデータから読み取れます。

これは、以前取り上げた「M字カーブの改善」や「女性の正規雇用労働者数の増加」といった他のトピックとも整合する、一貫したテーマです。

試験対策としての押さえ方

この分野は、細かい数字よりも「なぜこの分析がなされているのか」という問題意識のつながりを理解することが重要です。

  1. 出発点
    労働力人口は過去最高だが、少子高齢化で今後確実に減っていく(生産年齢人口の減少)
  2. 国際比較の位置づけ
    日本のGDP成長率は、かつて世界トップクラスだったが、バブル崩壊後に低迷し、近年は欧州主要国並みに回復
  3. 労働力供給量の構造
    かつては長時間労働が支えていたが、近年は労働時間短縮が進み、代わって女性の労働参加が供給量を下支えしている
  4. 今後の課題
    労働力の「量」でカバーできなくなる分を、どう補うか → (第Ⅱ部第1章後半・第2章で扱われる)労働生産性の向上社会インフラを支える職業の人材確保といった各論へとつながっていく

この「量的な制約が強まる中で、次に何が課題になるのか」というストーリーの流れを押さえておくと、白書の各論(生産性向上、社会インフラ人材確保など)がなぜそのテーマとして選ばれたのかも、自然に理解できるようになります。