すべては信頼関係から始まる|『謙虚なコンサルティング』を読んで
エドガー・H・シャインの『謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か』を読んで、面談でどのような質問をするかを考える前に、見直したいことがあると感じました。
それは、目の前のクライエントとどのような関係を築き、何に関心を向けて話を聴いているかということです。
私は現在、2級キャリアコンサルティング技能士試験に挑戦しています。ロープレや実際の面談を重ねる中で、悩みをどう理解するか、自己理解を促すには何を尋ねればよいかを考えてきました。
しかし、よい質問を用意するだけでは、安心して話せる面談にはならないのだと思います。本書の学びを、自分の面談の振り返りと結びつけて整理します。
この記事では、信頼関係と聴き方を取り上げます。具体的な質問や応答については、続編「質問する前に、何を聴いているか」にまとめました。
キャリア面談への応用は、本書を踏まえた私なりの解釈です。
Contents
支援者が答えを持っているとは限らない
本書が扱うのは、支援者が答えを渡すだけでは対応しきれない、複雑な問題への支援です。相手が自分の状況を理解し、次に何をするかを見いだせるように関わることが大切にされています。
私はロープレで、クライエントの話を聴きながら、「この人の問題は何だろう」「どのような目標や方策を考えればよいだろう」と考えていました。
キャリアコンサルタントとして見立てを持つことは必要です。ただ、問題を見つけようとする意識が強くなると、目の前の人より、自分が立てた仮説に注意が向いてしまいます。
過去に似た相談を受けた経験があると、今回も同じだろうと思うかもしれません。自分の得意な支援方法があると、その方法で扱える問題を探してしまうこともあります。
本書を読んで考えたのは、専門性を使う前に、その人について、まだ知らないことがあると自覚する必要性です。専門知識を捨てるのではなく、それだけで相手を分かったつもりにならないことなのだと思います。
プロセスを支えるということ
読書メモを振り返ると、プロセス支援の大切な点は、クライエントが自分たちの間で起きていることに気づき、別の関わり方や行動を選べるように支えることだと理解できます。
ここでいうプロセスとは、問題の中身だけでなく、話がどのように進み、誰が何に反応し、どのように判断や行動が生まれているかという過程です。
支援者は、分からないことを分かったつもりにせず、相手が今起きていることに気づき、別のやり方を考えられるよう、問いかける内容とタイミングを見極めます。
支援者が望ましい状態を先に決めて、そこへ相手を導くのではありません。まず、その人が何に取り組もうとしているのか、何を実現したいと思っているのかを知ろうとします。
キャリア面談でも、相談者が転職の話をしたからといって、すぐに転職活動の方法を考えるとは限りません。その人は、今の職場で感じていることを整理したいのかもしれませんし、働く上で何を大切にしたいかを考えたいのかもしれません。
支援者にはまだ分からないからこそ、相手の言葉を聴き、確かめる。その姿勢が、一緒に考える出発点になるのだと思います。
役割の関係から、一人の人間として関わる関係へ
レベル1の関係
シャインが説明するレベル1は、互いの役割に基づく関係です。キャリア面談に置き換えると、「キャリアコンサルタント」と「クライエント」という仕事上の関係が当てはまります。
役割に基づく関係には、礼儀や責任、適切な距離を保つ働きがあります。ただ、それだけで、その人が抱える言いにくい思いや迷いまで話せるとは限りません。
私はこれまで、関係構築とは、受容、共感、傾聴を適切に行うことだと考えていた部分がありました。しかし、技法を使えているかに注意が向きすぎると、相手を知ろうとする関心が薄れてしまうこともあるのだと思います。
レベル2の関係
本書で重視されるレベル2は、相手を役割だけで捉えず、一人の人間として関わり、信頼を土台に率直に話せる関係です。
これは、クライエントと友人になることや、私生活を詳しく聞くことだとは理解していません。その人が何を経験し、何を感じ、何を大切にしているかに関心を向けることなのだと思います。
クライエントが「この人は自分のことを知ろうとしている」「ここでは、もう少し話してもよいかもしれない」と感じられること。その積み重ねによって、初めて聞かせてもらえる話もあるのでしょう。
ただし、支援者だけが深い関係を望んでも、相手が同じことを望んでいるとは限りません。話したくないことや、今は話せないことも含めて尊重する必要があります。
また、支援者が相手を理解しようとするだけでなく、このやり取りが役に立っているか、関わり方に無理がないかを、双方で確かめていくことも大切です。
謙虚な関わりを支える三つのC
読書メモでは、本書の姿勢を支える要素として、三つのCを整理しています。
| 要素 | 意味 | キャリア面談で意識したいこと |
|---|---|---|
| Commitment | 力になりたいという積極的な気持ち | 相手が取り組みたいことを理解し、そのために何が役立つかを一緒に考える |
| Caring | 相手への思いやり | 相談内容だけでなく、その人の経験や気持ちを大切にする |
| Curiosity | 好奇心 | 既知の事例に当てはめず、その人について知ろうとする |
表の右列は、キャリア面談への私なりの応用です。
力になりたいという思いがあっても、相手のことを十分に知らないまま助言をすれば、支援者の考えを押しつけてしまうかもしれません。
反対に、詳しい情報を集めていても、相手への思いやりが伝わらなければ、詮索のように受け取られることがあります。
三つを別々の技法として使うというより、相手に向き合う姿勢として、そろっているかを振り返りたいと思います。
質問の前に、三つの聴き方を振り返る
自己中心的に聴く
クライエントの話を、自分の経験や関心に結びつけながら聴くことです。相手について知ろうとするよりも、自分にとってなじみのある出来事や、自分ならどうするかという考えに意識が向いています。
そのようなときでも、自分に関わることを考えながら、相手が語っていることも聴けているつもりになりがちです。しかし、自分の側に関心が向いている分、クライエントをもっと知ろうとする好奇心は弱まっています。話を追っているつもりでも、その人が何を伝えようとしているのかを十分に受け止められていないのです。
だからこそ、話のどの部分に自分の意識が向いたのかを振り返ることが大切です。自分との共通点に反応したのか、それとも、その人自身の経験を知りたいと思ったのか。何に心が留まったかを自覚することが、今の自分の聴き方を確かめる手がかりになります。
内容に共感しながら聴く
何が起きたのか、どのような状況なのかに注意を向ける聴き方です。出来事の経緯や細かな違いを理解するために必要です。
たとえば「上司に話せない」という相談であれば、これまでのやり取りや、話す機会があったのかを聴くことが考えられます。
ただ、状況を詳しく理解していても、その人がそこで何を感じているかまでは分かっていないことがあります。
人に共感しながら聴く
その出来事を、本人がどのように経験しているのかに注意を向ける聴き方です。
同じ「上司に話せない」でも、断られる不安なのか、迷惑をかける申し訳なさなのか、自分の希望をまだ決めきれないのかは、人によって異なります。声の調子や言葉の選び方にも、その人の思いが表れることがあります。
もちろん、表情や声から感じ取ったことは、支援者の受け止めであって、本人の気持ちそのものではありません。決めつけず、その人の言葉で確かめる余地を残すことが大切です。
状況の理解も、その人の経験の理解も必要です。今、自分はどちらに注意を向けているのかを自覚することで、その後の応答も変わるのだと思います。
2級試験の面談を振り返って
私は、2回目の2級キャリアコンサルティング技能士試験で、ケース1の本間さんを担当しました。
私の振り返りでは、本間さんは上司に仕事を休業したいと相談したいと思いながら、それを言えずにいました。私は、その悩みの中心にたどり着くまでに時間がかかりました。
当時の私は、悩みを理解しようとするより、問題を解決しようとする思考になっていたのだと思います。本間さんの表情が暗く、思い悩んでいるように見えていたにもかかわらず、次に何を聞くか、どこに問題があるかに意識が向いていました。
以前は、気づいた表情を言葉にして伝えなかったことを振り返っていました。しかし、読書メモまで含めて考えると、単に表情を伝え返せばよかったという話ではありません。
何のために伝えるのか。それによって、本間さんが自分の気持ちを話しやすくなるのか。あるいは、こちらから評価されたように感じるのか。そこまで考える必要があるのだと思います。
個人的な話を十分に聴けなかった背景には、私の関わり方や関係づくりにも振り返る点があります。ただ、この経験だけで、関係構築が唯一の原因だったとは言い切れません。
本書のレベル2の関係という考え方は、その面談を別の角度から見直す手がかりになりました。
自己理解を促す支援者になりたい
2級試験への挑戦を始めた当初は、資格を取得することが目的でした。しかし、ロープレや実際の面談を重ね、シャインの本を読んだことで、目指すものが変わってきました。
今は、クライエントの自己理解を促すことのできる支援者になりたいと思っています。
自分が大切にしていることや、自分を縛っている考え方に気づき、自分で進む方向を選べるようになる。その過程を、支援者が答えを決めずに支えたいと思います。
信頼関係を築くことは、面談の最初に済ませる一つの段階ではありません。その後の聴き方や問いかけを含め、面談全体を通してつくり続けるものなのでしょう。
私はまだ、レベル2の関係を具体的にどのようにつくるのか、自分の答えを持っていません。だからこそ、これからの面談で考え、試し、振り返っていきたいです。
その振り返りを具体的な応答につなげるため、続編では問いかけの種類と、伝える目的・タイミングを考えます。
参考資料
エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監訳、野津智子訳『謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か』英治出版、2017年。出版社の書籍紹介・目次
2級キャリアコンサルティング技能検定を軸に、過去問の出題傾向を分析したオリジナル予想問題50問を作成しました。
国家資格キャリアコンサルタント試験とも出題範囲が重なる部分が多いため、国家試験の学科対策にも活用できます。
過去問を一通り解き終え、初見問題で実力を確認したい方はぜひご活用ください。



