経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティング―報告書の要点と試験対策
Contents
この報告書で最も重要なのは「支援の広がり」
厚生労働省は2026年1月21日、「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書」を公表しました。
この報告書の中心は、キャリアコンサルタントの役割を、目の前の相談者が抱える問題への対応だけで捉えないことです。
相談者が変化に対応しながら自らキャリアを形成する力を育てること、組織や環境へ働きかけること、他の専門家と連携することまでが求められています。
国家資格キャリアコンサルタント試験では、第32回学科試験の問3と問48で出題されました。問3では全領域に共通して必要な能力、問48では活動領域ごとの能力が問われています。
受験生は、細かな文章をすべて暗記するより、次の全体像を先に押さえると整理しやすくなります。
- 「解決型」だけでなく「開発型」の支援を行う
- 自己理解・仕事理解に「環境理解」を加える
- 個人への面談だけでなく、組織・環境への働きかけや専門家との連携を行う
- AI等のデジタルツールを、正確性・妥当性・倫理に注意して活用する
- 企業、需給調整、教育、地域・福祉の各領域に応じた専門性を身につける
根拠:厚生労働省「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書」
なぜ新たな能力が求められているのか
報告書の背景には、少子高齢化、職業人生の長期化、働き方や価値観の多様化、DX・AI等の技術革新があります。産業や職業における労働需要だけでなく、仕事に必要な知識・技能も急速に変化しています。
このような状況では、過去に得た知識や会社から与えられた役割だけに頼ることは難しくなります。労働者には、環境の変化を捉え、自分のキャリアの方向性を考え、主体的・継続的に能力開発へ取り組むことが必要です。
一方、企業には、自律的にキャリア形成と能力開発へ取り組む人材を育て、人材の適正配置やエンゲージメント、生産性の向上につなげることが期待されています。
そこでキャリアコンサルタントにも、従来からの基礎的な能力に加え、経済社会情勢の変化に対応する能力と、活動領域に応じた専門的な能力が求められるようになりました。
全領域に共通して追加・強化が必要な能力
報告書は、活動場所にかかわらず共通して追加・強化すべき能力を示しています。試験では、次の内容を関連づけて理解することが重要です。
「解決型」だけでなく「開発型」の支援
「解決型」は、相談者が現在抱えているキャリア上の問題や課題の解決を支援する考え方です。これも必要ですが、報告書はそれだけでは不十分だとしています。
「開発型」の支援では、相談者が職業人生における目指す姿や将来ありたい姿を自ら設定します。その上で、必要な職業・職務の選択や能力開発の課題を明らかにし、達成に向けて取り組みます。最終的な目標は、相談者が自らキャリアを形成し、自分を継続的に高め続ける力を身につけることです。
したがって、「キャリアコンサルタントが相談者に代わって正解を示す」「問題が起きたときだけ支援する」という説明は、報告書の方向性と合いません。
自己理解・仕事理解・環境理解を促す
開発型の支援には、自己理解と仕事理解に加え、環境理解が必要です。
- 自己理解:価値観、興味、能力、経験、強みなどを理解する
- 仕事理解:職業・職務の内容、必要な知識・技能、労働条件などを理解する
- 環境理解:技術革新、産業や労働市場の変化、働き方、生活環境などを理解する
キャリアコンサルタントには、行政データや研究機関の調査など、信頼できる情報を収集・分析して提供することが求められます。将来予測を含む最新情報を扱う一方で、相談者自身が情報を得られるよう助言することも大切です。
自己理解の支援では、キャリア・シートやアセスメントツールを使うだけでなく、自己洞察を促す面談、キャリア研修、グループアプローチなども活用します。
職業生活設計を支援する
相談者が自己理解・仕事理解・環境理解を統合し、自分の課題を把握した上で、必要な能力開発と職業選択を含む職業生活設計を行えるよう支援します。
ここで大切なのは、職業だけを切り離して考えないことです。育児や介護と仕事を両立する人、セカンドキャリアを考える中高年齢者など、相談者の価値観、属性、生活スタイル、希望する働き方を踏まえます。そのため、労働関係法令、社会保障制度、各種支援制度に関する知識も必要です。
長期的な職業選択と主体的な意思決定を支える
職業選択の支援では、求人を紹介して終わるのではなく、将来予測を含む最新情報を踏まえて、長期的なキャリア形成に役立つ選択を支えます。
転職だけがキャリア形成ではありません。現在の職業や職務を続けることが、能力の開発・向上につながる場合もあります。
就職・転職・職種転換の場面では、地域の求人・求職状況や労働条件などの情報を提供し、相談者自身が選択基準を明確にして意思決定できるよう支援します。
応募書類や面接への対応という行動面だけでなく、環境変化に伴う不安や迷いを受け止める心理面の支援も必要です。
能力開発への動機づけと伴走を行う
相談者が教育訓練や自己啓発へ取り組む際には、学習内容や支援制度の情報を提供します。また、職務経験を通じた能力開発も支援の対象です。
さらに、受講を勧めて終わるのではなく、相談者が主体的に取り組めるよう動機づけ、進捗を確認し、継続を支える伴走的な支援が有効だとされています。
組織・環境への働きかけと専門家との連携
複雑で多様な課題は、1対1の面談だけでは解決できないことがあります。そのため、相談者がキャリアを形成しやすい環境を整える「アドボカシー支援」と、他のキャリアコンサルタントや他職種の専門家との連携が求められます。
相談者のライフステージや就業状況が変化しても支援が途切れないよう、必要に応じて適切な専門家や機関へリファーします。その前提として、自分の専門領域だけでなく、他領域の支援や他職種の役割も理解しておく必要があります。
AI等のデジタルツールを適切に活用する
AI等のデジタルツールは、情報の収集・分析だけでなく、キャリアコンサルティング自体にも使われ始めています。
報告書が求めているのは、AIを無条件に使うことでも、使わないことでもありません。次の3点を備え、支援の質を高めるツールとして活用することです。
- AI等を使って情報を収集・分析する
- AIが示した情報の正確性と妥当性を見極める
- 倫理面の問題が生じない形で活用する
試験では「AIが示す情報をそのまま相談者へ提供する」といった表現に注意しましょう。
4つの活動領域で追加・強化が必要な能力
報告書は、活動領域を「企業」「需給調整」「教育」「地域・福祉」の4つに整理しています。第32回問48では、能力と領域の組合せが問われました。
| 活動領域 | 主な支援対象・場所 | 試験対策で押さえる内容 |
|---|---|---|
| 企業 | 従業員、経営層、人事部門 | セルフ・キャリアドック、経営課題と人材戦略、組織への提案、職場環境づくり |
| 需給調整 | 求職者、派遣労働者、求人者 | 労働市場情報、マッチング、職業訓練、職場定着、派遣労働者のキャリアアップ |
| 教育 | 学生・生徒、社会人学習者、教育機関 | キャリア教育、就職・インターンシップ、カリキュラム、リカレント教育 |
| 地域・福祉 | 手厚い支援を必要とする人、家族、支援機関 | 丁寧な情報収集とアセスメント、支援プログラム、関係機関との連携、伴走・定着支援 |
根拠:厚生労働省「(別添)今後のキャリアコンサルティングに必要な能力」
企業領域
企業領域では、従業員への直接支援に加え、経営層や人事部門への働きかけが重要です。
自律的なキャリア形成は、必ずしも転職を促すものではありません。従業員が強みと希望を生かして組織内で力を発揮することにもつながります。キャリアコンサルタントは、その効果をデータや理論的根拠に基づいて企業へ説明し、セルフ・キャリアドックの導入・活用を働きかけます。
また、面談等から得た情報を守秘義務に配慮して個人・組織レベルで分析し、人材育成、配置、職場風土などの課題を経営層や人事部門と共有します。研修計画の設計・実施、職場環境の改善、管理職への助言、専門職とのチーム支援も含まれます。
従業員が仕事のやり方、周囲への働きかけ、仕事の捉え方を自ら工夫する「ジョブ・クラフティング」を支援することも、企業領域の特徴です。
需給調整領域
需給調整領域には、職業紹介事業者、労働者派遣事業者、公共職業安定機関などが含まれます。
求職者への支援では、地域の求人・求職や賃金、職種の業務内容、必要な知識・技能について最新情報を提供します。職務経歴や技能だけでなく、興味や価値観も把握してマッチングを行い、必要に応じて求職者の希望条件や求人者の採用条件の再設定を働きかけます。
応募書類や面接の支援、他の就労支援機関との連携、就職後の職場定着支援も含まれます。ハローワークでは、有効と判断される求職者に対して、具体的な職業訓練コースを提案する能力も必要です。
派遣労働者については、職務内容、必要な知識・技能、職場環境を伝えるほか、教育訓練計画、キャリアパス、派遣先や資格取得に関する情報提供などを行います。
教育領域
教育領域では、学生・生徒への個別の就職相談だけでなく、キャリア教育全体への関与が求められます。
企業や学内関係者と連携してキャリア教育のプログラムを構築し、キャリア理論に基づき、ジョブ・カードやキャリア・パスポートなどを活用した講習を行います。キャリア教育を正課の授業へ取り入れる意義を教育機関へ説明することも役割です。
就職支援やインターンシップでは、学生・生徒と企業双方のニーズを踏まえて助言し、講座やプログラムを企画します。また、企業から収集した「社会で求められる能力」などの情報を分析して、学内のカリキュラム設計へ提供することも期待されています。
さらに、社会人向けのリカレント教育について、プログラムの設計、講習、受講者へのキャリアコンサルティング、意義や効果の発信に協力します。
地域・福祉領域
地域・福祉領域には、地域若者サポートステーション、生活困窮者の自立相談支援機関、福祉施設、障害者支援施設、女性センター、自治体の支援事業などがあります。
支援の出発点は、本人と本人を取り巻く環境についての丁寧な情報収集とアセスメントです。本人との関係構築に加え、必要に応じて家族や他の支援機関とも関係を築き、支援に必要な情報を集めます。
その情報から課題を見立て、支援の必要性を本人へ十分に説明し、支援の方向性を提案します。セミナー、グループワーク、企業見学、職場体験などを段階的に企画・運営することも役割です。
キャリアプランの実行段階では、教育訓練や就職活動への伴走と心理的支援を行い、必要に応じて就職後の職場定着、家族や関係者への情報提供まで行います。
能力開発は資格取得後も続く
報告書は、資格取得を能力開発の終点とは捉えていません。養成講習で基礎的な能力を身につけた後も、更新講習、自己研鑽、現場での実践を通じて学ぶことを求めています。
自分の活動領域だけでなく、他領域の能力を学ぶことも重要です。領域を越えた連携が進み、キャリアコンサルティング全体の質の向上につながるからです。
実践的な学びとして、報告書は次の方法を挙げています。
- 経験豊富なキャリアコンサルタントの指導を受けるインターンシップ
- 個別事例の見立てや援助方法を検討する事例検討会
- 指導者が成長課題に応じて教育的介入を行うスーパービジョン
これらは知識・技能だけでなく、現場で生じる倫理的ジレンマへの対応を学ぶ機会にもなります。
キャリアコンサルティングの活用促進
報告書によると、国家資格登録者は2025年3月末時点で約8万人です。活動の場は、企業が約4割、需給調整機関と教育機関がそれぞれ約2割、地域の支援機関が約1割とされています。
一方、登録者の約3割はキャリアコンサルティングに関連する活動をしていません。また、2024年度の能力開発基本調査では、キャリアコンサルティングを行う仕組みがない事業所が約5割と報告されています。
しかし、キャリアコンサルタントへの相談を希望する労働者は、正社員で6割弱、正社員以外で4割弱です。企業側の「労働者からの希望がない」という認識と、労働者側の希望との間には隔たりがあります。
そのため、制度を設けるだけでなく、キャリアコンサルティングの意義や効果を伝え、実際に体験できる機会を増やすことが必要です。効果を示す際には、活用事例に加え、キャリア自律度やエンゲージメントスコア等の指標を使って成果を可視化・定量化することも有効だとされています。
なお、これらの数値は報告書が引用した調査時点の値です。将来の記事更新や試験対策では、調査年と対象を確認してください。
第32回試験で問われたポイント
問3―全領域に共通する能力
問3では、報告書の全体的な方向性が問われました。特に重要なのは次の3点です。
- 問題への「解決型」支援だけでなく、相談者が継続的にキャリアを形成する力を育てる「開発型」支援を重視する
- 自己理解・仕事理解・環境理解を促す
- AIの情報について、正確性・妥当性を見極め、倫理に配慮して活用する
詳しい選択肢解説は、第32回 問1〜5 解答解説をご覧ください。
問48―能力と活動領域の組合せ
問48では、具体的な能力が4領域のどこに位置づけられるかが問われました。
- セルフ・キャリアドックの導入を企業へ働きかける:企業領域
- 求職者の就職後に職場定着を支援する:需給調整領域
- 学生・生徒のキャリア教育や就職・インターンシップを支援する:教育領域
- 家族や福祉機関等と関係を築き、情報を収集する:地域・福祉領域
「事業主の講ずる措置を学生に理解させる」といった、内容と対象領域を入れ替えた記述に注意が必要です。
詳しい選択肢解説は、第32回 問46〜50 解答解説をご覧ください。
試験対策で優先して覚えること
最後に、優先順位をつけて整理します。
- 「解決型」だけでなく「開発型」
- 自己理解・仕事理解・環境理解の3つ
- 情報収集、職業生活設計、職業選択、能力開発を一連の支援として捉える
- 行動面と心理面の両方を支援する
- 個人支援に加え、アドボカシー、連携、リファーを行う
- AIは正確性・妥当性・倫理を確認して活用する
- 4領域と代表的な業務を対応させる
- 更新講習だけでなく、事例検討会やスーパービジョン等で実践的に学ぶ
- キャリアコンサルティングの効果を可視化し、活用機会を広げる
「相談者に正解を与える専門家」から、「相談者が自ら選び、学び、変化に対応する力を育てるとともに、組織や社会にも働きかける専門家」へ役割が広がっていると理解すると、個別の内容を結びつけやすくなります。
まとめ
この報告書は、経済社会情勢が変化する中で、キャリアコンサルタントに必要な能力を全領域共通と4つの活動領域に分けて整理したものです。
試験対策では、「開発型」「自己理解・仕事理解・環境理解」「組織・環境への働きかけ」「専門家との連携」「AIの適切な活用」を共通部分の柱として押さえます。その上で、企業、需給調整、教育、地域・福祉の代表的な業務を対応させましょう。
第32回では同じ報告書から2問出題されました。今後も、活動領域ごとの能力や、能力開発・活用促進を含めて問われる可能性があります。表面的な用語の暗記にとどまらず、誰に、どこで、何を目的として支援するのかを説明できるようにしておくことが大切です。
参考資料
- 厚生労働省「研究会報告書を公表します」(2026年1月21日)
- 厚生労働省「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書」
- 厚生労働省「(別添)今後のキャリアコンサルティングに必要な能力」




