【理論編④】社会学習理論 ― バンデューラが解明した「見て学ぶ」仕組み
理論編の最後は、バンデューラ(Albert Bandura)の社会学習理論(モデリング理論)です。キャリアコンサルタント試験では、クランボルツの「計画的偶発性理論」とあわせて社会的学習理論の文脈で問われることも多い、重要な理論家です。
Contents
行動療法の基本的な考え方
バンデューラの理論を理解する前提として、まず行動療法全体の考え方を押さえておきましょう。
行動療法は、精神分析のように無意識を扱うのではなく、また論理療法のように考え方(認知)だけを扱うのでもなく、観察可能な「行動」そのものに注目します。
行動療法の基本原理は、学習理論に基づいています。
- レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ):パブロフの犬で有名な、刺激と反応の結びつきによる学習
- オペラント条件づけ:スキナーが提唱した、行動の結果(報酬や罰)によってその行動の頻度が変化する学習
「不適応な行動は学習によって身についたものであり、あらためて学習し直すことができる」というのが行動療法の基本スタンスです。
バンデューラの独自性:「自分でやらなくても学べる」
従来のオペラント条件づけでは、自分自身が実際に行動し、その結果(報酬・罰)を経験することで学習が成立すると考えられていました。
バンデューラはここに、大きな一石を投じます。
人は、他者の行動とその結果を「観察」するだけでも学習できる
これがモデリング(観察学習)です。子どもが親の言動を真似て育つように、私たちは自分自身が直接経験しなくても、他者(モデル)の行動を見ることによって、新しい行動パターンを獲得できるという考え方です。
モデリングが成立する4つの過程
バンデューラは、観察学習が成立するプロセスを、次の4段階で説明しています。
- 注意過程:モデルの行動に注意を向ける
- 保持過程:観察した内容を記憶として保持する
- 運動再生過程:記憶をもとに、実際にその行動を再現する
- 動機づけ過程:その行動を実行しようという意欲(モデルが報酬を得ていた、など)
もう一つの重要概念:自己効力感(セルフ・エフィカシー)
バンデューラのもう一つの重要な功績が、自己効力感(self-efficacy)の概念です。これは「自分はこの課題を遂行できる」という、自分の遂行能力に対する信念・確信を指します。
自己効力感は、単なる「自信」とは異なり、特定の課題・状況に対する「できそうだ」という予期という点が特徴です。この自己効力感は、以下の4つの情報源によって高まるとされています。
- 遂行行動の達成(実際に成功体験を積む)― 最も強い影響力を持つ
- 代理的経験(他者の成功をモデリングとして観察する)
- 言語的説得(「あなたならできる」といった励まし)
- 情動的喚起(良い意味での緊張・興奮などの生理的状態)
キャリアコンサルティングにおける意味合い
社会学習理論は、キャリア支援の実務と非常に相性の良い理論です。
- クライエントに、目標とする働き方をしている人(ロールモデル)の話を聞いてもらう、事例を紹介する、といった支援はモデリングの活用そのものです
- 小さな成功体験を積み重ねてもらう支援(「まずは求人を1件見てみる」など)は、自己効力感を高める代表的なアプローチ(遂行行動の達成)にあたります
- なお、クランボルツの計画的偶発性理論も、この社会学習理論の考え方を土台として、キャリア形成における「偶然」の役割を説明したものです
試験でのひっかけポイント
以下のキーワードが出てきたら、行動療法・社会学習理論(バンデューラ)のアプローチです。
- 「モデリング」「観察学習」「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」「社会学習理論」
「無意識」ならフロイト、「態度条件・自己一致」ならロジャーズ、「イラショナル・ビリーフ」ならエリス、「モデリング・自己効力感」ならバンデューラ、という4者の対比を頭の中に整理しておくと、この種の比較問題への対応力が大きく上がります。
以上、4回にわたって主要なカウンセリング理論を詳しく解説しました。
それぞれの理論の「時代背景」や「何に反発して生まれたか」という文脈で理解すると、単なる暗記ではなく、記憶に残る知識になります。



