この記事について
キャリアコンサルタントの学科試験には、数多くの理論とその提唱者が出題されています。
かなりの量の理論を覚えなければいけないので、備忘記録として記事にします。
提唱者と理論、あとは、提唱者を連想するためのキーワードなどを書いていきます。
今回は、出題頻度の高い、スーパー、シャイン、サビカス、シュロスバーグの理論をまとめます。
スーパー
ドナルド・E・スーパー(Donald E. Super)の理論は、自己概念を基軸としたキャリア発達理論として知られており、生涯にわたるキャリア形成のプロセスを説明している。
*自己概念とは、個人が自分自身について抱く信念や認識の総体
キャリアの定義
スーパーはキャリアを「人々が生涯にわたって追求し、社会的に占めている地位・業務・職務の系列」と定義。
この定義は、キャリアを単なる職業活動に限定せず、人生の生き方や人間関係、社会的役割を含む広範な概念として捉えています。
理論の特徴
- 多様性の認識:個人は多様な可能性を持ち、様々な職業を選択できると考えた。
- 発達的視点:職業発達を個人の全人的な発達の一側面として捉える。
- 継続的プロセス:キャリア発達を漸進的、継続的、非可逆的なプロセスとして説明。
- 適応力の重視:成人期のキャリア発達の基本概念として「アダプタビリティ(適応力)」を挙げた。
ライフ・ステージ論(マキシサイクル)
スーパーは、キャリア発達を5つの段階に分けて説明。
- 成長期(0歳から14歳)
- 身体的成長と自己概念の形成が中心
- 職業に関する空想や興味が芽生える時期
- 探索期(15歳から24歳)
- 様々な職業分野とその要件を学ぶ
- 自己の興味や適性に合わせて特定の仕事を絞り込む
- 確立期(25歳から44歳)
- 特定の仕事に定着し、責任を果たす
- 職業的専門性を高め、キャリアを確立する
- 維持期(45歳から64歳)
- 確立した地位を維持し、新たなスキルを習得
- キャリアの成功と自己実現を目指す
- 下降期または解放期(65歳以降)
- 有給の仕事から徐々に離れる
- 新たな人生の段階へ移行する
この分類はマキシサイクルと呼ばれ、さらにこれは、リサイクルされる。
各ステージの移行期(トランジション)には、新たなミニサイクルが発生し、「新成長・再探索・再確立」のプロセスが螺旋状に繰り返されることで、キャリアが発達していく。
マキシサイクルとミニサイクルの関係
- 循環的な関係
ミニサイクルは、マキシサイクルの中で繰り返し発生する。各ライフステージの移行期や、キャリアの変化時に「新成長-新探索-新確立」のプロセスが螺旋状に繰り返される。 - 適応と成長:
ミニサイクルは、マキシサイクルの各段階で直面する課題や変化に適応するためのメカニズムとして機能。これにより、個人は継続的に成長し、キャリアを発展させていく。 - 予測可能性と不確実性:
マキシサイクルが比較的予測可能な発達課題を示すのに対し、ミニサイクルは年齢に関係なく不連続で予測不能な適応課題に対応。 - 具体例:
例えば、大学卒業後に初めての仕事に就く際、「探索期」から「確立期」へのマキシサイクルの移行が起こる。その後、数年後に部署異動があった場合、これはミニサイクルの一部となり、新たな「成長-探索-確立」のプロセスが始まる。
職業的自己概念
キャリア発達を「職業的自己概念を発達させ実現していくプロセス」と考えた。
職業的自己概念は、個人が職業に関連すると考える自己の特性群を指す。
これは主観的自己と客観的自己の統合によって形成され、時間や経験とともに変化し、青年期後期から晩年にかけて安定性を増していく。
ライフ・スパン/ライフ・スペースアプローチ
スーパーは、キャリア発達に役割の視点(ライフ・スペース)と時間の視点(ライフ・スパン)を取り入れた。
これにより、個人の生涯にわたる様々な役割や経験がキャリア発達に与える影響を説明している。
キーワード
- ライフ・ステージ論
- マキシ・サイクル
- ミニサイクル
- 成長期・探索期・確立期・維持期・解放期
シャイン
エドガー・H・シャインの理論は、キャリア発達における個人と組織の相互作用を重視したもので、特に「キャリア・アンカー」、「キャリア・サバイバル」、「キャリア・コーン」といった概念が中心となっています。
理論の特徴
個人と組織との相互作用や発達的視点からキャリア発達を理解しようとしています。
彼の理論は、キャリアカウンセリングや組織開発において重要なフレームワークとして広く活用されています。
シャインは、欲求と動因の基本的な組み合わせは、効果的なキャリア・アンカーとして役割を果たすとし、それはキャリアの選択に影響を与えるだけでなく、転職にも影響を与え、その個人が人生で見つけたいと思っているものを形づくり、未来の展望、関連する目標と対象の総合的な評価を特徴づけるとした。
キャリア・アンカー
キャリア・アンカーとは、個人が選択を迫れれたとき、その人が最も放棄したがらない欲求、価値観、能力(才能)等のことで、その個人の自己像の中心を示すものであり、キャリアの積極的定着促進要員といえます。
キャリア・アンカーは、個人が職業上の自己イメージを形成する要素であり、以下の3つの要素から構成されます。
- 自覚された才能と能力: 自分が得意とするスキルや知識。
- 自覚された動機と欲求: 何を重視し、どのような働き方を望むか。
- 自覚された態度と価値: 自分が大切にしている価値観や信念。
キャリア・アンカーの種類
シャインは最初に5つのキャリア・アンカーを提唱しましたが、最終的には以下の8つに分類しました。
- 専門・職能的コンピタンス: 特定の専門分野での能力を発揮すること。
- 全般管理コンピタンス: 組織全体を管理し、成功に貢献すること。
- 自律・独立: 自分の基準で仕事を進めたいという欲求。
- 保障・安定: 安全で安定した職場環境を求めること。
- 起業家的創造性: 新しい事業を創出し、成功させたいという意欲。
- 奉仕・社会貢献: 社会に貢献したいという願望。
- 純粋な挑戦: 難しい課題を克服したいという欲求。
- 生活様式: 仕事と私生活のバランスを重視すること。
キャリア・サバイバル
キャリア・サバイバルは、個人の価値観やニーズと企業の求める役割やスキルを調和させることを目指す概念です。
働き手が持つ「譲れない価値観」や「仕事に求めるもの」と、企業が求める役割やスキルとの調和を図るプロセスを指します。
このプロセスは以下のステップから構成されます。
- 現在の職務と役割を棚卸しする
- 環境の変化を識別する
- 環境変化が利害関係者に与える影響を評価する
- 職務と役割への影響を確認する
- 職務要件を見直す
- プランニング・エクササイズを広げる
このプロセスは、個人が自己のニーズと組織のニーズを調和させながら、キャリアパスを形成していくために重要です。
キャリア・コーン(3次元モデル)
シャインは、組織内キャリアを理解するために「キャリア・コーン」というモデルを提唱しました。このモデルは以下の3つの次元から構成されています。
- 機能(職能): 組織内で異なる職能間(例:製造から販売)で移動すること。
- 地位(階層): 組織内での昇進や降格(例:見習社員から係長へ)による移動。
- 中心性: 組織内での重要な役割や位置づけ(例:部門間で中心的な役割を果たす)。
このモデルは、個人がどのようにして組織内で成長し、移動していくかを示すものであり、キャリア開発における戦略的な視点を提供します。
内的キャリアと外的キャリア
シャインはキャリアを「内的キャリア」と「外的キャリア」の2つの軸から捉えています。
- 内的キャリア: 個人が仕事に対して抱く動機や意味づけ、自身の価値観など主観的側面。
- 外的キャリア: 客観的側面として、仕事の内容や実績、組織内での地位など。
キーワード
- キャリア・アンカー
- キャリア・サバイバル
- キャリア・コーン
- 内的キャリア・外的キャリア
- 組織と人との相互作用
サビカス
サビカスの理論は、従来の客観的なデータに基づくキャリア理論とは異なり、個人の主観的な意味づけやストーリーを重視します。
変化する自分自身と変化の激しい社会・環境とを柔軟に適合させながら、自分らしい価値のあるキャリアを築くことを目指しています。
キャリア構築インタビューという手法を用いて、クライアントが過去、現在、未来の出来事について意味づけを行い、ストーリーとして語ることを重視しています。これにより、未来に関する問題解決の糸口を見つけることができるとされています。
この理論は、個人の主観的な意味づけを重視し、以下の3つの主要な概念に基づいています。
職業的パーソナリティ (What)
- 定義:個人のキャリアに関連する能力、ニーズ、価値観、関心
- 特徴:
- 客観的に測定可能なものではなく、主観的で変化する可能性がある
- 人と環境の適合度は時間とともに変化する
キャリア・アダプタビリティ (How)
キャリア・アダプタビリティは、サビカスによって提唱された概念で、変化する環境や職務に適応しながらキャリアを進める能力を指します。この能力は4つの次元から構成されており、それぞれの詳細は以下の通りです。
1. 関心 (Concern)
- 定義:職業上の未来に対する関心と準備の姿勢
- 特徴:
- 未来志向的な態度
- キャリアプランニングの重要性の認識
- 将来の可能性に対する積極的な探索
2. 統制 (Control)
- 定義:自身のキャリアに対する責任感と主体性
- 特徴:
- キャリア構築の責任は自分にあるという自覚
- 職業上の未来を自ら所有しているという信念
- 自己決定力と意思決定能力の向上
3. 好奇心 (Curiosity)
- 定義:自己と環境に関する探索的態度
- 特徴:
- 新しい機会や可能性への開放的な姿勢
- 職業に関する環境の積極的な探索
- 自己と職業のマッチングを目指した情報収集
4. 自信 (Confidence)
- 定義:キャリア上の課題に対処する能力への確信
- 特徴:
- 進路選択や職業選択に必要な行動を実行できる自己効力感
- 日常的な問題解決経験の積み重ねによる自信の醸成
- キャリア上の障害を乗り越える能力への信頼
これら4つの次元は相互に関連しており、一連の流れとして「関心→統制→好奇心→自信」という順序で発展していくと考えられています。キャリア・アダプタビリティを高めることで、個人は変化の激しい現代社会において、より柔軟にキャリアを構築し、適応していくことが可能になります。
ライフ・テーマ (Why)
- 定義:職業生活について「なぜその仕事をするのか」「どうしてその仕事を選んだのか」といった意味づけを主観的に行うこと
- 特徴:
- 一見バラバラに見えるキャリアにも一貫した意味づけを可能にする
- キャリアの危機的状況で特に重要となる
主要概念(職業的パーソナリティ、キャリア・アダプタビリティ、ライフ・テーマ)の使われ方
サビカスのキャリア構築理論における3つの主要概念(職業的パーソナリティ、キャリア・アダプタビリティ、ライフ・テーマ)は、主に以下のように使われます
キャリアカウンセリングの枠組みとして
クライアントの自己理解を深め、キャリア選択や発達を支援する際の基本的な視点を提供します。
キャリア構築インタビューの実施
特に「5つの質問」を用いたインタビュー手法により、クライアントのライフ・テーマを明らかにします。
5つの質問
サビカスのキャリア構築理論におけるキャリア構築インタビューで使用される5つの質問は以下の通りです。
- 尊敬している人物
- 定期的に見る雑誌やテレビ番組
- 好きな本
- 好きなことわざやモットー
- いちばん最初の思い出
これらの質問は、クライアントのライフテーマを明らかにするために使用されます。
この手法は、個人の主観的な意味づけやストーリーを重視し、キャリアに統一感のある意味や価値観を与える解釈の枠組みを提供します。
キャリア構築インタビューは、ナラティブ・セラピーをベースにしており、クライアントが語るストーリーを通じて「物語的真実」を見出すことを目的としています。
これにより、個人は変化に直面したときに柔軟性を持ちながら一貫性を保つことができるとされています。
個人のキャリア適応力の評価と向上
キャリア・アダプタビリティの4つの次元(関心、統制、好奇心、自信)を基に、個人の適応力を評価し、改善点を見出します。
自己分析ツールとして
幼少期の記憶や好きなストーリーなどを通じて、個人の潜在的な「追求」テーマを発見し、現在の自分とのつながりを見出します。
キャリア教育やキャリア開発プログラムの設計
企業や教育機関が、個人のキャリア適応力を高めるための面談やフィードバック、教育体制を構築する際の理論的基盤として活用されます。
キーワード
- ナタティブ・アプローチ
- 関心・統制・好奇心・自立
シュロスバーグ
人生の転機を乗り越えるためのフレームワークを提供する成人のキャリア形成に関する理論。
人生の転機(トランジション)に焦点を当てており、これらの転機をどのように認識し、対処するかを体系的に説明している。
この理論の核心は、人生には様々な転機があり、それらを乗り越えることでキャリアが形成されていくという考え方。
この理論を通じて、転機に直面した際に「今何が必要か」を明確に把握し、効果的に対処することが可能となる。
理論の特徴
転機の分類
シュロスバーグは転機を以下のように分類。
- イベント型転機
- 予期していた転機(就職、結婚など)
- 予期していなかった転機(失業、病気など)
- ノンイベント型転機
- 予期したのに起こらなかったこと(昇格できなかったなど)
4Sモデル
転機を乗り越えるためのリソースとして、シュロスバーグは「4つのS」を提唱。
- Situation(状況):転機の性質や個人の置かれた状況
- Self(自己):個人の特性や内的資源
- Support(支援):周囲からの支援や利用可能なリソース
- Strategies(戦略):転機に対処するための行動計画
シュロスバーグ理論の適用プロセス
- 転機を見極める:直面している転機のタイプを特定する
- リソースを点検する:4つのSを用いて自己分析を行う
- 転機を受け止め、対処する:分析結果に基づいて行動を起こす
キーワード
- 人生の転機(トランジション)
- 4S(状況・自己・支援・戦略)