この記事について
今読んでいる(聴いている)平野啓一郎著「空白を満たしなさい」から考えたことを書いています。
あなたは本当の自分を知っている?
この本のストーリーが進む中で、「本当の自分」という言葉が出てきます。
「本当の自分」
言葉自体はよく耳にします。
自分も初めて聞いた言葉ではないし、むしろどこかで使っているかもしれません。
こんな馴染みのなる言葉「本当の自分」ですが、よく考えるとわからなくなります。
自分が考えている「本当の自分」は真実の「本当の自分」なのでしょうか?
真偽は誰が決めるのでしょうか?
答えがわからない状態で、どれが本物なのか。
本物と偽物を識別する「物差し」が無いような気がしました。
「分人」という考え方
この本の中で、「分人」という概念があって、これは自分以外の誰かに影響されてできている自分を指します。
例えば、妻の前の自分と、友人の前の自分、それぞれ違った振る舞いをしたりしませんか?妻にしか見せない自分、友人の前にしか見せない自分など、その人と一緒にいるときに出てくる自分を「分人」としています。
この考え方の重要なところは、自分の中の「嫌な自分」を肯定的に捉えることができる考え方だというところです。
この「分人」という考え方は、自分は1人だけという考え方ではありません。
自分以外の誰かと交流することでその人から影響を受けたその人との「分人」が生まれてしまれてしまいます。
自分の中にたくさんの自分を肯定する考え方なのです。
その中には、『「家族の前の自分」が嫌がるような自分』もいるということです。
大抵の場合、「自分」は世界中でただの1人だけ。と考えるのが普通ですよね。
というより、「自分」とは何か?と考える人の方が多くないかもしれませんね。
自分で自分が嫌になる場合、この「自分が嫌がる自分」の存在を許せない時だと思います。
自分はこういう人間だから、こういった考え方をしてしまう自分は自分ではない。
という風に、自分の中にある自分のイメージと矛盾するような思考を許せません。
この考え方が強くなると自分で自分が許せなくなり、認知的不協和により、自分を過小評価するようになり、そして、自己肯定感が持てなくなってくるのではないでしょうか。
ですが、「分人」という考え方は、その自分も肯定します。
こんな考え方は自分ではないというような考え方を持ってしまうのは、他者から影響を受けた「分人」が生まれたからで仕方のない事だと。
ただ、その「分人」の割合を大きくしないように、見守れば良い事だとしています。
「分人」の割合
ここで出てきた「分人」の割合という概念ですが、これは、自分という1つの器の中にある分人の濃さです。
家族との時間を大事にして、多くの時間を費やしているのならば、その家族との「分人」は濃くなり、割合も多くなります。
ただ、前述したように、多くの人との出会いで多くの「分人」が生まれますので、1つの「分人」を100%にすることはできません。
この割合が、その人のパーソナリティを表すのだと思います。
本当の自分とは
本当の自分をこの「分人」という概念を含めて考えてみると、それは、時と共に変わる、その人の中にある「分人」の割合ということになります。
自分とは、空の瓶のようなもので、それ自体にはあまり意味はありません。
ただの器です。
それに、どんなものを入れていくか。どんな「分人」で満たしていくかで、自分を形成していきます。
そう、自分は変えられるということです。
ペルソナとの違い
心理学ではペルソナ(仮面)という考え方があります。
本当はこんな自分ではないと嫌悪感を抱くような場合、その役割を演じるためにペルソナ(仮面)を被り、本当の自分とはリンクさせないようにして、自我の安定を保つ方法があります。
「分人」という考えもこれに良く似た考えでありますが、これとは決定的に違うのは、「分人」も自分ということです。
ペルソナは、役割というか、演出というか、舞台上のキャラクターのイメージで、本当の自分は別にいて、今演じている役割は、自分の人格とは全く関係ないというような考え方で、「分人」は、その自分は確実に自分の中にいるということに、決定的な違いがあります。
どちらが良くて、どちらが悪いか。というものでは無いので、自分が納得できる考え方をすれば良いと思います。
余談
「分人」という考え方を水で満たされた瓶の中(自分)に、絵の具(分人)を入れるというようなイメージを考えました。
赤い絵の具が多ければ赤っぽく、青い絵の具が多ければ青っぽくなりますよね。
でも、いろいろな色を少しずつ入れていくと、最後に辿り着くのは黒っぽい灰色になってしまいますね。
結局、たくさんの人と出会って多くの「分人」を取り入れると、みんな同じ色になるんじゃないかと考えました。
でも同じような色に見えますが、その構成要素は微妙に違い、全く同じ色は作り出せません。
でも、引いてみると同じに見える。これが人間なんだと思いました。
その黒っぽい灰色という色が、人間が本来持っている「道徳」という色なのだと思います。
多くの人と出会い影響を受けることで、「人間」になれるんだと感じました。
まとめ
今回は「空白を満たしなさい」から、考えたこと。特に「分人」について書いてみました。
自分は知らなかったのですが、令和4年6月からNHKで「空白を満たしなさい」がドラマ化されて放送されているみたいです。
原作が本当に面白く考えさせられるテーマだったので、興味を保たれた方で、読書は苦手だという方は見てみるのもいいと思います。
読み終わって考えたのは、平野啓一郎さんの表現の素晴らしさです。
どうやったら、実際にこんな風に主人公の気持ちを描写できるのだろうと読みながら考えさせられました。
そのくらい、この本には自殺をした主人公の葛藤がリアルに表されています。
人生に息詰まったり、毎日が楽しくないと感じる日が多くなって来たと感じたときに読みたい1冊です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは次の記事で。