Contents
この記事について
キャリアコンサルタントの学科試験には、数多くの理論とその提唱者が出題されています。
この記事では、多文化・社会正義の視点からのキャリア理論とその提唱者をまとめました。
トニー・ワッツ
社会正義のキャリア支援論のパイオニアとして知られています。
彼の理論の中心的な概念は「キャリアガイダンスの4つのイデオロギー」で、1976年に提唱されました。
キャリアガイダンスの4つのイデオロギー
ワッツは、キャリア支援を「社会に焦点がある/個人に焦点がある」と「変革を目指す/現状維持を目指す」の二軸で分類し、4つのアプローチを定義しました。
コンサバティブ(社会統制)
社会に焦点を当て、現状維持を目指すアプローチ。
社会のニーズに合わせて人材を適材適所に配置する。
リベラル(非指示型)
個人の自由を尊重し、自己実現を支援するアプローチ。
1950年代の自己実現論をベースにしている[1]。
プログレッシブ(個人的変化)
個人の変革の可能性を重視するアプローチ。
現状に満足せず、個人の成長を追求する[1]。
ラディカル(社会変革)
社会そのものの変革を目指すアプローチ。
個人ではなく社会に働きかけ、問題解決を図る。
ラディカル(社会変革)アプローチの重要性
ワッツは特にラディカルアプローチを重視しました。
このアプローチは
- 個人を対象とするのではなく、社会に働きかける。
- 制度や環境の改善を通じて問題解決を図る。
2000年以降、社会正義のキャリアコンサルティングの潮流の中で注目を集めている。
現代社会におけるワッツ理論の意義
ワッツの理論は、現代の不安定な社会において再評価されています。
- 個人の問題だけでなく、社会の問題にフォーカスする必要性を強調。
- キャリアコンサルタントの役割を、個人支援から社会変革の担い手へと拡大。
- 非正規雇用や少子高齢化などの社会問題に対して、制度改革や政策提言を通じたアプローチを提案。
ワッツの理論は、キャリア支援を通じて社会全体を変革する可能性を示唆し、現代のキャリアコンサルティングの重要な基盤となっています。
リンダ・ゴットフレッドソン
リンダ・ゴットフレッドソンの「限界と妥協理論」は、キャリア選択のプロセスを説明する重要な理論です。
この理論は、キャリアカウンセリングや若者のキャリア発達支援において重要な示唆を与えており、「やりたいこと」だけでなく、現実的な制約や社会的要因を考慮したアプローチの必要性を示唆しています。
理論の基本概念
ゴットフレッドソンは、キャリア選択が「限界と妥協」の過程で行われると主張しました。
この理論によると、個人は社会的なステレオタイプや個人的な制約に基づいて職業選択の範囲を狭め、現実的な選択を行います。
4つの主要段階
- 限界設定 性別や社会的地位に基づいて職業選択の範囲を設定する段階。
- 妥協 現実的な制約を考慮して職業選択を修正する段階。
- 探索 自分の興味や能力に基づいて職業選択を具体化する段階。
- 確立 選択した職業においてキャリアを確立する段階。
「排除」原則
ゴットフレッドソンの理論の特徴的な点は、子供のキャリア発達における「排除」原則です。
- 子供は将来「やりたいこと」よりも「やりたくないこと」を排除する傾向がある。
- 排除の基準には発達的なプロセスがあり、主に以下の順序で形成される。
- 性別(6〜8歳)
- 職業威信(9〜13歳)
- 職業興味(14歳以降)
理論の意義
- キャリア選択における現実的な制約とその影響を強調している。
- 個人が職業選択においてどのように妥協を行うかを理解するための枠組みを提供している。
- 職業に伴う不平等が発達の過程で内面化されるメカニズムを説明している。
フアド
キャリア支援における文化的配慮の重要性を主張した理論家です。
この理論は、キャリアカウンセリングにおいて文化的多様性を考慮することの必要性を強調し、より包括的なアプローチを促進しています。
理論の特徴
- 異文化キャリアアセスメント論を提唱しました。
- フアドは、従来のキャリア支援で使用されるアセスメントが暗黙にアメリカ白人の主流文化を前提としていると批判しました。
- 彼の理論は、文化に配慮したキャリアカウンセリングの進め方に焦点を当てています。
- フアドの理論は、多様性や少数派、弱者を重視する現代のキャリア理論の一つとして位置づけられています。
フアドの理論は、グローバル化が進む現代社会において、異なる文化的背景を持つ個人のキャリア支援に重要な視点を提供しています。
ナンシー・アーサー
キャリア支援における文化的配慮の重要性を強調した理論家です。
ナンシーの理論は、グローバル化が進む現代社会において、異文化間のキャリア支援や、マイノリティのキャリア発達支援に重要な視点を提供しています。
アーサーの研究は、キャリアカウンセリングの分野に文化的視点を導入し、より効果的で公平なキャリア支援の実現に貢献しています。
理論の特徴
彼女の主要な貢献は以下の通りです。
- 文化を取り入れたキャリアカウンセリングモデル(Culture-Infused Career Counseling: CICC)を提唱しました。
- このモデルは4つの重要な領域から構成されています。
- 自分の文化的アイデンティティを知る
- 他者の文化的アイデンティティを知る
- 作業同盟(カウンセリング関係の構築)に対する文化的な影響を理解する
- 文化的に対応した社会的に公平なキャリア支援を行う
- アーサーの理論は、キャリアカウンセリングにおいて文化と社会的公正さを関連づける重要性を強調しています。
- 彼女の研究は、多様性が増す現代社会において、キャリア支援の実践に重要な指針を提供しています。
- アーサーの理論は、異なる文化的背景を持つ個人のニーズに対応する必要性を主張し、包括的なアプローチを促進しています。
ブルースティン
ブルースティンの理論は、キャリア支援における社会正義の重要性を強調しています。
ブルースティンの理論は、従来のキャリア支援が主に「アメリカ白人男性ホワイトカラー」を中心に行われてきたことへの批判から発展し、より包括的で社会正義を重視したアプローチを提唱しています
理論の特徴
主な特徴は以下の通りです。
- 社会階層の重視:キャリア支援において最も重要な要因は「社会階層」であると主張しています。
- 「忘れられた半分の声」:労働者階級や貧困層など、従来のキャリア理論で見過ごされてきた層に焦点を当てています。
- 階層による職業意識の違い:
- 上位階層:自己実現や能力に合った仕事を重視
- 下位階層:経済的理由が仕事の主な動機
- 具体的な支援方法:
- スキル開発:特に貧困層のクライアントに重要
- 構造化されたグループ支援:孤独感や孤立感の軽減
- メンタルヘルスとキャリアの統合
- 批判的意識の育成:クライアントの自覚と自立性の向上
- 社会的・文化的影響の認識:個人のキャリア形成は、生まれ育った環境や社会階層に深く影響されるという視点。