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この本について
希望の歴史(上) Humankind
著者 ルトガー・ブレグマン
1988年生まれ、オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。
ユトレヒト大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で歴史学を専攻。
「サピエンス全史」著者のユヴァリ・ノア・ハラリも「わたしの人間観を一新してくれた本」として推薦している。
希望の歴史(上)結論 と このブログについて
人間は本質的には善である。
これが本書の結論です。
この本を読むことで、人間が生まれながらに善を好む生き物であるということが理解できます。
また、なぜ、凄惨な戦争や事件が起こるのかというメカニズムを性善説の立場から説明しています。
もし、人間は生まれながらに悪と考える「性悪説」に立っているのなら、是非、一度読んでいただき、世界の見方を考え直すきっかけとして下さい。
このブログは、その導入となるよう、各章のキーポーンとを要約して行きます。
性善説と性悪説
皆さんは、人間は生まれながらに善なのか、悪なのか、という「性善説」「性悪説」について、考えたことはありますか?
Perplexityで確認したところ、以下のような結果が出ました。
アンケート結果によると、性悪説的な考え方を持つ人の割合が高い傾向にあります。
- 男性:
- 性悪説的な考え (58%)
- 性善説的な考え (42%)
- 女性:
- 性悪説的な考え (77%)
- 性善説的な考え (23%)
全体的には、人間は生まれながらに悪と考える人が半数以上いるという結果です。
世界価値調査においても、ほぼ全ての国で、ほとんどの人は、ほとんどの他人を信用できないと考えているという結果も出ています。
ベニヤ説
ベニヤ説とは、人間の道徳性や善良さに関する考え方の一つで、以下のような特徴があります。
ベニヤ説の概要
- オランダ生まれの生物学者フランス・ドゥ・ヴァールが名付けた説です。
- 人間の道徳性を薄いベニヤ板に例えており、「人間の道徳性は、薄いベニヤ板のようなものであり、少々の衝撃で容易に破れる」という考え方です。
ベニヤ説の特徴
- この説によると、人間の善良さや道徳性は表面的なものに過ぎず、容易に崩れ去ってしまうとされています。
- 人間の本質は悪であり、道徳的な行動は薄っぺらな表層に過ぎないという悲観的な人間観を示しています。
性悪説のホッブスと性善説のルソー
この性善説と性悪説について、説いた思想家がいます。
トマス・ホッブス
ホッブスは、英国の哲学者で、「リヴァイアサン」の著者として有名な人物です。
その著書の中に出てくる「万人による万人の闘争」という言葉を耳にした人は多いのではないでしょうか。
ホッブスは、自然状態における人間の生活は、常に、他者への恐怖や、死への恐怖にさらされており、安全を切望する状態で、「孤独で、哀れで、おぞましく、野蛮で、短い」と表現しています。
この状態を「万人による万人の闘争」です。
このような、恐怖で満ちた状態は、個々の自由(体と心)を1人の君主に委ねることで解消するとしています。
この1人の君主を聖書に登場する海の怪獣にちなみ、「リヴァイアサン」と名付けています。
ジャン=ジャック・ルソー
ルソーは、8世紀の啓蒙主義時代に活躍したスイス出身の哲学者で、その思想はフランス革命に多大な影響を与えた人物です。
ルソーは、人間の本性は善良であるが、「文明」のせいで、人間は救済されるどころか破壊されると考えました。
ホッブスが「リヴァイアサン」を刊行してから、約100年後、ルソーは、「科学や芸術の復興は、モラルを腐敗させたか、純化させたか?」という検証論文の募集広告の問いに、「文明社会は有難いものではなく、災いであることに私は気づいた」と悟り、論文を作成し、その論文は最終に選ばれています。
文明が肯定した、私有財産の発明が、人間を奴隷化し、破滅へ向かわせたと痛烈に批判しています。
私有財産により格差が生まれ、奴隷が生まれる。財産を守るために争いが起きる。規模は大きくなり、都市化し、国家となる。そして混沌となる。
自然状態の人間は、思いやりのある生き物で、社会は格差のない平和な状態であると主張しています。
なぜ、人間は生まれながらに悪だと思うのか
では、なぜ、我々はそのように考えてしまうのでしょうか?
原因はニュースにあります。
ここではニュースを偶発的でセンセーショナルな事件を報じる最も一般的なジャーナリズムと定義しています。
ニュースの多くは、人間の悪い部分にフォーカスするものが多いことに気づいているでしょうか。なぜか?それは、良いニュースは悪いニュースより反応が悪い。
悪いニュースは反応が良い。言い換えれば、お金になるということです。
なぜ、悪いニュースに反応しやすいのか
それには、2つの理由があります。
①「ネガティビティ・バイアス」→恐れ知らずは死ぬ可能性が高い。進化心理学的側面。言い換えれば、人間は臆病であるからこそ、生き残れた。人間は恐れに対して敏感になるように進化してきた種である。
②「アベイラビリティ・バイアス」→思い出しやすい情報は、よく起きると思い込む。自分がよく見聞きすることは、頻繁に起こっていると錯覚する心理作用です。
このような状況から、そのニュースの本質を知ることなく、与えられた情報のみで、状況を判断してしまうのが人間です。文中には、「ニュースを見るには理性が足りない。」(自分たちのこと(人間性)を知らなすぎである)と表現しています。
デジタル時代において、この傾向は強まるっているともいます。FacebookやXなどSNSの媒体から、一方的に情報が送り届けられています。
これは、平凡な人々にとって、ニュースという刺激は、砂糖のように刺激的で、依存性のあるものです。
スイスの小説家はこれらの状況を「心にとってのニュースは、体にとっての砂糖に等しい」と表現し、皮肉を言っています。
ノセボ効果が反応を強める
プラセボ(偽薬)効果をご存知でしょうか?
実際の薬理作用がないにもかかわらず、症状の改善や何らかの効果が現れる現象を指します。
簡単に言えば、人間が思い込むことによって、思い込んだ効果が出ることを言います。
人間にとってプラスの効果が出ることを、プラセボ効果と言いい、逆にマイナスの効果が出ることをノセボ効果と言います。
ニュースやSNSなどからの悪いニュースによって、「多くの分野で人間は利己的である」というノセボ効果の影響を受けている状態です。
それは、私たちの個人の考え方はもちろん、経済学や歴史学、西洋哲学にも広く、性悪説で思想が展開されていることを裏付けています。
性悪説思想で展開された思想への反証
このような背景から、性悪説を裏付ける実験や、性悪説を後押しする物語が生まれました。
希望の歴史(上)では、生み出された、性悪説に基づいた実験や出来事を1つ1つ反証する形で、人間は生まれながらに善であることを主張します。
その中には、リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」や、「スタンフォード監獄実験」「ミルグラムの電気ショック実験」など、超有名な著書や実験を、バッサバッサと薙ぎ倒していきます。
まとめ
希望の歴史(上)は、性善説の立場に立ち、なぜ性悪説が蔓延しているか。という問いから始まり、それは真実なのかということを探って行きます。
そして、性悪説を裏付ける実験などを洗い直し、その実験が間違いであることを解き明かしながら、性善説を主張する形で進んでいきます。
メディアやSNSなどの情報から、私たちは、性悪説に染まっています。
でも、それは真実なのでしょうか?
一度、この本を読み、事実を確認し、考えをフラットにしてみてはどうでしょうか?
情報が溢れる時代。
私たちは、その情報を自ら選択肢、精査して取り入れなければいけない時代になりました。
そんな時代だからこそ、読むべき1冊であると思います。