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この本について
著者 ジャレド・ダイアモンド
出版 日本経済新聞出版社社
天才読書 〜世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊〜 の中の1冊
個人的危機と世界各国の危機を退避しながら、危機的状況からの解決方法を考える
上・下巻の出版がある。
上巻は
- 個人的危機
- フィンランドを危機
- 日本の危機
- チリの危機
- インドネシアの危機
が書かれている。
この記事では、1の個人的危機と2のフィンランドの危機について個人的に忘れたくない部分と、印象に残った部分を書いていく。
個人的危機
個人的危機の解決の成功率を上げる12の要因
- 危機に陥っていると認めること
- 行動を起こすのは自分であるという責任の受容
- 囲いをつくり、解決が必要な個人問題を明確にすること
- 他の人々やグループからの、物心両面での支援
- 他の人々を問題解決の手本とすること
- 自我の強さ
- 公正な自己評価
- 過去の危機体験
- 忍耐力
- 性格の柔軟性
- 個人の基本的価値観
- 個人的な制約がないこと
1 危機に陥っていると認めること
自分が今、危機的状況にいるという自覚が必要。
自覚がなければ、対応をすることができない。
2 行動を起こすのは自分であるという責任の受容
危機的状況を理解していても、それを自分で解決しようという意思がなければ、危機的な問題に対して受け身であり、その成り行きに結果を預ける形になる。
3 囲をつくること
問題を特定し言語化する。危機的状況の中にも、うまくいっていることと、そうでないことがある。現状の中の良い部分と悪い部分を整理する。
4 周囲からの支援
違う視点からのアドバイスにより、問題の特定と言語化がうまくいったり、金銭的な援助により問題に集中して取り組もことができる。
5 手本になる人々
同じような危機的状況を乗り越えた人がいるのであれば、それは有効な情報となる。状況を分析した上で、有用と判断できるのであれば、真似をすることで状況を打破できる可能性が上がる。
友人や知り合いなどに限定されず、書籍なども十分手本として役立つ。
6 自我の強さ
自分は自分であるという感覚を持ち、目的意識があり、他者へ意思決定や生活を依存せず、自立した自分を誇れることなど。
これは、危機の最中に起こりがちな身のすくむような恐怖を克服し、新しい解決策をさがすうえで必須となる。
7 公正な自己評価
危機に陥った人が適切な選択をするためには、自分の中でうまく機能している部分と、うまく機能していない部分について、公正な自己評価をすること。
苦痛を伴う作業だが、自分の強みを保持しつつ、弱みを新しい対処法でカバーする選択的変化へとつながる。
自分はたいてい、自分を公正に評価できていない
8 過去の危機体験
危機を乗り越えた経験は、次の危機も乗り越えられるはずという大きな自信となる。逆に、過去の危機を乗り越えられなかった場合はトラウマとってしまう。
なんとかなる。なんとかなった。と思えることが重要
9 忍耐力
解決策だと思ったものがうまく機能しないことも多々ある。解決までには試行錯誤を続けることが必要であるため、忍耐力がなければ、すぐに諦めてしまい解決まで辿りつかない。
10 性格の柔軟性
選択的変化を通じて危機を克服するうえで、柔軟性は有利に働く。頑固であり、自分を変えられない人間は、新しい方法の模索や、新しい方法を試すことをしない。
11 個人の基本的価値観
個人のアイデンティティの中核となる信念で、その人の道徳的規範や人生観の基盤となる。
選択的変化をする際には、決して変えられない、譲れない部分を決めておく必要がある。
死守しなければいけないものがはっきりしていれば、変化を受け入れることの助けとなる。
しかし、危機的状況の中では、絶対的価値観だと考えていたものが見直しの対象となることもしばしばある。それゆえに、基本的価値観は危機の解決を容易にすることもあるが、難しくすることもある。
本書の中では、アウシュビッツの例を挙げており、「汝、盗むなかれ」という十戒に背き、生きるために盗みをしたという。そして、収容所から生き延びた人々は信仰心を失った。生還したユダヤ系イタリア人作家のプリーモ・レーヴィは、「アウシュビッツでの経験は宗教教育から受け継いだものを一掃した。アウシュビッツが存在する、ゆえに神は存在し得ない。このジレンマの解決法が見つからない」と述べている。
12 個人的な制約がないこと
現実的な問題や責任に縛られない選択の自由があること。
とるべき選択肢を取れない状況であると、新しい方法を試すことは難しくなり、問題解決につながらない。
国家の危機
国家と個人の危機の特性の間にはいくつかの間に関連性がある。
フィンランドの危機
度重なる、ロシアのフィンランドへの侵攻が危機となる。
フィンランドは冬戦争、継続戦争という2回の戦争後、モスクワ休戦協定を結んだ。
この過程を詳細に本書では分析している。
この2回の戦争から、フィンランドは、自国は弱小国であること、西側諸国からは支援が期待できないこと、ソ連の思考を理解し、常に意識しなければならないこと、ソ連の官僚と対話を絶やしてはいけないこと、フィンランドが約束を守り、合意を実行する姿勢を示すことでソ連の信頼を得て、維持しなければいけないこと。そして、その信頼の維持にあらゆる努力をしなければいけないことを学んだ。
それは、フィンランドという国を守るうえで、取らなければいけな選択的変化であった。
ケッコネン大統領が上記の路線(パーシキヴィ=ケッコネン路線)について説明した文書がとても印象的だった。以下、本書より抜粋
「フィンランド外交に託された第一の課題は、わが国の存立と、わが国の地政学的環境を支配する利害関係との折り合いをうまくつけることである。・・・フィンランドの対外政策は予防外交であり、やるべきことは、危機が間近にくる前に察知し、危機を回避する対策を講じることである。望ましいのは、対策が講じられたこと自体が察知されない方法だ。・・・特に、自国の姿勢が趨勢を変えられるなどという幻想を抱いていない小国にとっては、軍事分野や政治分野での事態の展開を左右する要素を、早めに正確に把握することが非常に重要だ。・・・国家は他国を当てにしてはいけない。戦争という高い代償を払って、フィンランドはそれを学んだ。・・・・この経験から、小国には外交問題の解決に様々な感情、好きとか嫌いとか、を混ぜ込む余裕はつゆほどもないことを学んだ。現実的な外交政策は国益と国家間の力関係という国際政治の必須要素に対する認識に基づいて決定されるべきである」
この文章に全てが込められている。
特に、「好きとか、嫌いとかの感情を持ち込む余裕はつゆほどもないことを学んだ」という部分について、好きでソ連に就いたわけではない。そうせざる得ない状況がフィンランドにあったということを物語っている。
一見すると、戦後のフィンランドは長いものにまかれ、言われるがままに振る舞っているように見える。しかし、これは、フィンランドがフィンランドという国として振る舞うための最善の解決法であったのだと、この章を読んで理解した。
屈辱的で、耐え難いものがあっただろうことは想像に難くない。しかし、そうでもして、守りたい自国の存続という「基本的価値観」がしっかりとあったからこそだと感じた。
詳細は、是非、本書を手に取って読んでほしい。
次回の記事へ続く