この記事について
丸山正樹 著のデェフ・ヴォイスをオーディブルで聴き終わったので、その感想を備忘録として記します。
ネタバレ要素もあるかと思いますので、気になる方は、ご注意ください。
聴きはじめは、2023年11月下旬から、約1週間、通勤往復、約1時間半の時間を、約1週間で聴き終えました。
読んだ感想ですが、とても、興味深い内容で、自分の知らない世界も垣間見え、面白かったです。
この作品は、2011年に書かれたもので、今から、10年以上前の作品ですが、2023年にTVドラマ化されたこともあり、注目度が再燃したのだと思われます。
★ボリュームは約8時間。ナレーターも良く、ストレスなく聞けました。
この本を選んだ理由は、表紙です。
今月のおすすめに出てきた1冊で、子供が誰かと手を繋いでいる絵がとても印象的でした。
タイトルの「デェフ・ヴォイス」を見て、最初は何を意味するのかわかりませんでしたが、副題の「法廷の手話通訳士」を見て、内容をおおよそイメージしました。
著者について
著者は、丸山 正樹さんで、経歴は
早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。
広告代理店でアルバイトの後、
フリーランスのシナリオライターとして企業・官公庁の広報ビデオから映画、オリジナルビデオ、テレビドラマ、ドキュメンタリー、舞台などの脚本を手掛ける。
2011年に『デフ・ヴォイス』により小説家デビュー
ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/丸山正樹 最終更新日2023年5月16日
元々は、脚本家だったんですね。
そして、この「デェフ・ヴォイス」で小説家デビューしたみたいです。
後書きで記してありましたが、著者は特にろう者社会と深い関わりがあったわけではなく、近親者に障害者がいたことで、障害を持つ人をテーマにした小説を書きたいと思っていたとのことです。それが形になったのが、この作品です。
発表当初は、ろう者に関係する人たちが主に作品を手にしていたようですが、今回、TVドラマされたことにより、私のような、その世界のことを知らない人たちがこの作品を手にしてくれたことを著者の丸山さんは嬉しく思うと記されていました。
主人公 荒井尚人
両親と兄は先天性のろう者であり、その中で唯一聴こえる子として生まれた、主人公の荒井尚人を中心に、ある殺人事件の真相を探るというミステリー小説となっています。
主人公は、仕事、結婚など人生に失敗した中年男性という設定です。
作中の荒井は、とても気難しい性格なんだろうなと、読んでいて思いました。
恋人には自分のことは一切話さず、ドライに接しているのですが、随所荒川の優しさが滲み出ていて、読み進めるうちに愛着が湧きます。
最初の頃は、自分が積極的に社会に関わることを嫌っていて、陰で生きることを決めているような節がありましたが、後半は、正義感の塊のような人間になっていて、まるで別人のように行動します。
元々、こういう性格の人間だったのだけれども、これまでの人生が荒井を変えたんだろうなぁ。と推測できます。
後半は特に大胆で、こんなに力強く、そして行動力のある人間だったんだ。と驚きます。
自分だったら、その選択はしないだろうな。という選択も、ほぼ躊躇なく選択する荒井には、当初の日陰で暮らしている新居の面影はなくなり、まさに主人公という振る舞いに変わっていきます。
最後には、自分が絡っていた殻を破り捨て、「聴こえない親から生まれた、聴こえる子」として前向きに生きることを決めたシーンには感動しました。
手話について
この作品で、キーになるのは、手話です。
手話には、日本手話と日本語対応手話の2つがあります。
自分は、手話は1つだと思っていてので、この事実にびっくりしまいた。
この2つの違いは、
日本語対応手話は、言葉通り、日本語がベースになっているので、中途失聴者や難聴者が使うことが多いようです。
日本手話は、日本語とは全く異なる文法を持っていて、生まれつき聴こえない方や、幼少期に聞こえなくなった方が使うことが多いみたいです。ニュアンスとしては、日本語とは関係ない全く別の言語と言った方が理解しやすいかもしれません。
そして、ろう者の中にの、この2つの手話を主にどちらを使うかで、対立があるような描写が作中にあり、その部分にも驚きました。
確かに、後者の日本手話は、日本語とは別の言葉であり、それを使う人の中では、それが母国語と同じような感覚を持っているのだと思います。
ですので、日本手話を使う人は、その言葉(日本手話)に誇りを持っているようです。
フランス人が英語を喋ることができるのに、喋らない様子と似てますね。(←実際にフランス人の友達もフランスへ行ったこともないので、本当かどうかは不明です)
ですが、日本語対応手話は、日本語→手話という変換が行われるので、日本手話を主に使っている人には凄く疲れるそうです。
ここも、日本人が英語を話す時と少し似ていますね。
また、日本手話の方が、素早く相手に意思を伝えることができるようで、その点でも日本語対応手話との違いがあるみたいです。
内容について
この作品の大事な部分は、聴者の、「ろう社会への理解」だと思います。
作品を読んで感じたことは、「ろう者」は、聴こえないということは障害ではあるものの、「ろう」というものにプライドを持ち、そして、自分たちの文化をしっかりと守ろうとしているだと感じます。
聴者としては、「障害者だから優しくしなければ」というものではなく、1つの文化を持った尊重すべき人として見るべきなんだろうと思います。
聴者である私たちは、その文化を知らないが故に、知らず知らずのうちに、その文化を傷つけてしまうような言動をしてしまっていたのかもしれません。
そうなると、文化を傷つけられた側は、怒ります。ですが、知らない私たちは、なぜ怒っているのかが理解できません。
そんなすれ違いが今でも、たくさん起きているのだと思います。
知ることがいかに大事かがよくわかる作品かと思います。