「今夜、世界からこの恋が消えても」について
この記事は、「今夜、世界からこの恋が消えても」を読んで思った自分の感想を書いています。ネタバレ要素もありますので、気になる方は、読み進めないようにお願いします。
作者は、一条岬さん
出版は、メディアワークス文庫
第26回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞を受賞しています。
この作品が一条さんのデビュー作で、映画化もされるくらいヒットしたみたいです。
ですが、自分は全然知らず、オーディブルの新作に出てきたので、なんとなく聴いたことが作品を知ることのきっかけです。
普段は、あまり恋愛物を読まないのでなぜ、これに手を出したのかは今になってはわかりません。
でも、多くの気づきを得ることができた作品でした。
物語のあらすじは、高校生の恋愛物語です。
ただ、少し違うのは、ヒロインの日野真織の記憶が維持されないという部分です。
絶望から始まる朝
日野真織は交通事故により、事故にあってからの記憶を保てません。
簡単にいうと、寝てしまうとその日の記憶を忘れてしまうのです。
事故にあう当日の記憶は保持されているので、朝起きるると、事故にあう日から始まるという感じです。
朝起きて、日記すぐ見るよう、過去の自分からのメッセージが書かれた貼り紙が部屋にあることに気づき、毎朝、日記を読みます。
そして、自分が記憶喪失であることに毎朝絶望します。
ここの描写が本当に辛い。
毎朝、絶望をしなければいけないなんて、不遇過ぎると感じました。
でも、この感覚は、明日以降も記憶を保持できる人間としての視点であって、記憶が保持できない人であるならば、その絶望は、「毎朝、初めて訪れるもの」だから、明日も絶望するという感覚はないのかもしれません。しかし、この感覚には矛盾があって、明日記憶をなくす感覚(記憶)を保持して、明日を迎えなければ、この感覚にはならないと思います。逆にいうと、記憶を保持できなければ、そこまで楽観的にはなれないということです。
明日記憶をなくすことは理解できたとしても、明日以降も記憶を保持できることが当たり前の思考を持っているので、結局は、記憶を保持できる人と同じように考えてしまうはずです。
だから、恐らく日野真織は、「永遠に続く毎朝の絶望」に絶望したはずです。
たくさんの「自分」
当たり前のように、「自分」という存在は1人だけだと思っていました。
過去の自分と、今の自分は同じ人間だと、疑うことなく生きています。
しかし、日野真織は違います。
過去の自分、昨日の自分に嫉妬します。
過去の自分という、今の自分ではない自分へ嫉妬をするのです。
作中では、過去の日記を読んで、今日何をするべきかを考えるのですが、過去の自分が幸せであったことを知ります。
ここで重要なのは、絶望の中にいる今日の自分が、幸せいっぱいの昨日の自分の日記を読んでいるのです。
この絶望と幸福の対比が非常に深い。
過去の自分を今の自分に統合するのは、記憶というもので結ばれて初めて1つになることを知りました。
当然のように1つであるように思っていましたが、生まれたから、死ぬまで、毎日、違う自分がいるという考え方も成立するのです。
記憶が消去されているわけではない
少し、作品の話からズレるのですが、記憶についての書籍で「ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由」を最近、読みました。
その中で、脳は記憶を消去していないということが書かれていました。
簡単にいうと、脳の中には記憶されているものの、それを引き出せない状態みたいです。
全てのことを忘れずに覚えていると、情報量が多過ぎて、判断するのに時間を要してしまうため、本当に必要だと思われる記憶だけをすぐに呼び出せるようになっているようです。
これは、外敵の多かった人類が生き抜くために獲得した能力の一つみたいです。
無駄な情報ばかりで、判断が遅れたら死んでしまいますからね。
大事な情報かどうかは、どれだけそれを脳から引き出すかという頻度で決まるようです。
たくさん、その記憶を使えば、それが大事なものであると認識し、定着するみたいです。
神谷透の思い
神谷透が好きでもない日野真織に罰ゲームとして告白をしたところから始まる物語ですが、ひょんなことから、真織の病気について知ってしまいます。
神谷は真織の絶望を理解し、真織に毎日笑顔を提供しようと考えます。
全て真織のため。
この神谷の献身的な思いと、真織の絶望が絡み合いがこの作品の味を出しているのだと思います。
ラストには、神谷は、衝撃的なことを実行します。
この考え方を他人に対してできる人が本当にいるのか、疑問ではあります。
そこまで人に尽くせるものなのか。
でも、この部分がこの作品を秀逸なものにしているのだと感じます。
神谷透が日野真織に何をしたかは、是非、作品で確認してみてください。
まとめ
自分と記憶について考えさせられた作品でした。
そして、切ない物語に心が揺れました。
オーディブルで聴きましたが、引き込まれる作品は頭の中にその描写が浮かんできて、映像を見ているかのように感じます。
むしろ、映像を見ているより面白いかも。
読んで損のない作品ですので、興味がありましたら作品を手に取ってみてください。
また、映画化かもされているようですので、読書が苦手な方は、そちらをみても良いかもしれませんね。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。