理論

フォーカシングの提唱者:ジェンドリン

ユージン・ジェンドリン(Eugene T. Gendlin)について

ユージン・ジェンドリン(1926年12月25日 – 2017年5月1日)は、オーストリア・ウィーン生まれのアメリカの哲学者・心理療法家です。ナチスの迫害を逃れて幼少期にアメリカへ移住し、シカゴ大学で哲学を学んだ後、カール・ロジャーズのもとでカウンセリングを学びました。

主な業績

  • フォーカシングの創始
    • ジェンドリンは「フォーカシング(Focusing)」という心理療法技法を開発しました。これは、クライエントの「言葉にしがたい身体感覚(フェルト・センス)」に注意を向け、その感覚から意味を引き出すことで問題解決や心理的変化を促す方法です。
    • フォーカシングは、来談者中心療法(カール・ロジャーズ)を発展させたもので、体験過程理論(Experiencing Theory)に基づいています。
  • 体験過程理論
    • ジェンドリンは「体験過程(experiencing)」という概念を提唱しました。これは、私たちがまだ言葉にできない、漠然とした身体感覚や体験の流れを重視する理論です。体験過程を言葉や象徴にすることで、人は成長や変化の方向へと進むとされます。
  • 哲学的業績
    • 晩年は心理療法の領域から離れ、哲学的思索に専念。特に「プロセスモデル(A Process Model)」や「TAE(Thinking at the Edge)」という理論構築のための方法を開発しました。
    • 彼の哲学は、身体と心、言語と体験の関係性を深く探求し、20世紀の主流だった心身二元論を超えるものと評価されています。

人柄と影響

  • ジェンドリンは温かくユーモアのある人物で、誰に対してもフランクに接し、思索のプロセスそのものを大切にしていました。
  • 彼のフォーカシングは世界中で普及し、心理療法だけでなく自己成長やセルフヘルプの分野にも大きな影響を与えています。

フォーカシングとは

フォーカシングは、ユージン・ジェンドリンによって開発された心理療法的アプローチで、「自分の体で感じる微妙な感覚(フェルトセンス)」に意識を集中させ、それを言葉やイメージに変換することで、感情や思考をより深く理解し、自己成長や問題解決を促す技法です。

理論的背景

  • 体験過程理論
    ジェンドリンは、カウンセリングが効果的な場合とそうでない場合の違いを研究し、クライエントが「言葉にしづらい身体感覚」に触れながら話すことが、心理療法の成否を分けると発見しました。この「体験過程(experiencing)」に注意を向け、象徴化(言語化やイメージ化)することが、自己理解や変化の鍵となります。
  • フェルトセンス
    フォーカシングの中心概念で、体の中心部でぼんやりと感じる、言葉にならない曖昧な感覚を指します。たとえば「なんとなくモヤモヤする」「胸のあたりが重い」など、理由ははっきりしなくても確かに存在する感覚です。
  • フェルトシフト
    フェルトセンスに丁寧に注意を向け、適切な言葉やイメージを見つけていくと、感覚や気持ちが「ふっと変わる」瞬間が訪れることがあり、これをフェルトシフトと呼びます。この変化が気づきや癒し、行動の変容につながります。

フォーカシングの手順(6ステップ)

  1. 間を置く
    気持ちを落ち着かせ、内側に注意を向ける。
  2. フェルトセンスを見つける
    「なんとなく気になること」や「モヤモヤすること」を身体感覚として感じる。
  3. ハンドルを見つける
    その感覚に合う言葉やイメージ(ラベル)を探す。
  4. ハンドルとフェルトセンスを共鳴させる
    見つけた言葉やイメージが本当にしっくりくるか、感覚と照らし合わせる。
  5. フェルトセンスに尋ねる
    「この感じは何を伝えたいのか?」と、静かに問いかける。
  6. フェルトセンスを受け取る
    感覚の変化や気づきを受け入れ、必要ならば記録する。

フォーカシングの特徴と効果

  • 体験内容より体験過程を重視
    何を話すかよりも、どのように感じ、どのように話すかという「体験過程」に注目します。
  • 自己成長・問題解決
    フェルトセンスに丁寧に触れることで、自己理解が深まり、感情の整理や新たな気づきを得やすくなります。
  • セルフヘルプとしても有効
    一人でも実践でき、日常生活の中で自分の内面と向き合う手段として活用できます。

フォーカシングのバリエーション

  • 一人で行うセルフフォーカシング
  • ガイド(リスナー)と一緒に行うペア・グループワーク
  • コラージュや描画、音楽など非言語的表現を取り入れた応用
  • 夢フォーカシングやホールボディ・フォーカシングなどの発展型

まとめ

フォーカシングは、「今ここ」の自分の内面に丁寧に注意を向けることで、言葉にならない気持ちや感覚を受け止め、自己理解や変化を促す心理的プロセスです。