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この記事について
面談を進めていると、ロジャーズの自己一致という原点に戻ってきました。
面談は、どのように進めるのか。
迷った際に、基本的な用語の定義を吟味してみるといいかもしれません。
ロジャーズの中核三条件
カール・ロジャーズの「中核三条件」とは、来談者中心療法(クライエント中心療法) において、心理的な変化や成長が起こるとされる三つの基本的な態度・条件のことです。
- 自己一致(Genuinenessとも呼ばれる)
カウンセラーが自己の感情や考えを偽らず、本音でクライエントに接すること。誠実で自然体であることが信頼関係を築く基盤となる。 - 無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard)
クライエントの価値や存在を条件なしに尊重し、受け入れること。善悪や好き嫌いで判断せず、ありのままの相手を尊重する。 - 共感的理解(Empathic Understanding)
クライエントの立場や感情に深く共感し、その内面的な世界を理解しようとすること。クライエントの感じていることを正確に感じ取り、言葉や態度で知らせる。
この三つの態度が心理的な接触の中で一定期間続くと、クライエントの自己理解や自己受容が促進され、心の変化や成長が生じるとロジャーズは主張しました。この理論はカウンセリングだけでなく対人関係全般に応用されています。
つまり、それぞれが「正直さ」「無条件の愛情」「深い共感」を示すことで、相手は安心して自己開示や自己変容ができるというわけです。
自己概念
自己概念とは、自分自身について抱いているイメージや認識のことです。
具体的には、自分の性格や能力、外見、行動、価値観、役割など、自分をどのように理解し評価しているかという自己に関する全体的な認知と評価を指します。
自己概念は、生まれつきではなく、自分自身の経験や周囲の人々との関わり、文化や社会的な影響を通じて形成されます。
例えば、「私は努力家だ」「私は人付き合いが苦手だ」といった自分への思いやイメージが自己概念にあたります。
また、自己概念は「私は誰か?」という問いに対する答えの一つであり、自分の行動や考え方の基盤となる重要な要素です。
自己概念が安定していると、自分に自信を持ちやすく、心理的にも安定しやすいです。
心理学的には自己概念は「自己同一性(アイデンティティ)」「身体像」「自尊感情」「理想自己」「役割」などの複数の要素で構成されていると考えられています。
まとめると、自己概念とは「自分が自分自身について持っているイメージや認識・評価」であり、それに基づいて自分を理解し行動する土台となるものです。
自己不一致
はい、その通りです。自己不一致の状態とは、自分が評価している自分(自己概念)と、自分が実際に経験している自分(現実自己)が食い違っている状態を言います。
具体的には、
- 「私はこうあるべき」「こうありたい」と考えている理想の自分(理想自己)や自分に課している義務・ルール(義務自己)と、
- 実際に自分が感じたり行動したりしている現実の自分(現実自己)が一致しない状態
が自己不一致です。
例えば、「人前で自信を持って話したい」と思っているのに、「実際は緊張してうまく話せない」といったギャップがある場合です。このズレが大きいほど、不安、ストレス、自己否定感など心理的な苦痛が増すとされます。
ロジャースの理論では、人は自己一致を目指して成長しようとしますが、この不一致が心の葛藤や不調の原因となることが示されています。
自己不一致の状態における「歪曲」と「拒否」について
自己不一致の状態における「歪曲」と「拒否」について説明します。
自己不一致の歪曲(Distortion)
歪曲とは、自分の経験や現実を無理に自己概念に一致させようとして、その体験をねじ曲げて認識することです。
例えば、「私は誰からも好かれるべきだ」と考える人が、誰かに批判された経験を「その人は嫉妬しているのだ」と解釈し、実際の批判を自己概念に合うように歪めて受け止める場合が当てはまります。
この歪曲は、自分の理想と現実のズレを和らげ、一時的に心理的な痛みを減らす働きがありますが、根本的には自己概念と現実の不一致を解消していないため、葛藤やストレスが続きます。
自己不一致の拒否(Denial)
拒否とは、自己概念にそぐわない経験や感情を無意識的に認めず、存在しないものとして扱うことです。
例えば、自分では「自分は怒らない人間だ」と思っている人が怒りの感情を感じても、それを認めず無かったことにしたり、感情表現を抑え込むことがこれにあたります。
拒否は自己概念を守るための防衛機制の一種ですが、感情や体験を否定し続けることで、心の健康に悪影響を与え、内面的な葛藤やストレスの原因になります。
まとめ
自己不一致がある状態では、「現実の経験が自己概念と合わない」という葛藤を避けるために、歪曲や拒否といった心の防衛機制(認知の歪み)を使いがちです。
これにより一時的な安定は得られますが、長期的には自己理解の阻害や心理的苦痛の原因となりやすいです。
ロジャースはこの状態から、ありのままの自分を受け入れ、自己概念を柔軟にする「自己一致(自己受容)」を目指すことを提唱しています。
ロジャースの「自己一致」とは、自分の内面の経験(感情や感覚)と、自分が抱いている自己概念(自分自身に対する認識やイメージ)が調和し、一致している状態を指します。
つまり、「自分が感じていること(実感)」と「自分が思っている自分(自己概念)」が重なっている部分と言えます。
通常、自分の実感は自分の自己概念と大きく違わないものですが、心理的な葛藤や防衛機制が働くと、そのズレが生じることがあります。
また、「自分が思っている自分」と「他人が思っている自分」が一致するかどうかは別の問題で、これは社会的自己や対人関係の認知に関わるテーマです。
ロジャースの自己一致はあくまで「自分自身の内面」に関わるものです。
【要点】
- 自己一致=自己概念と自分の内的経験が一致している状態
- 自分の実感は基本的に自己概念と一致している
- 他人の評価との一致は別問題
- ズレがある時は葛藤や心理的ストレスが生じる
簡単に言えば、自己一致は「自分が本当に感じていることと、自分が自分だと思っていることが食い違っていない状態」と捉えられます。